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実際のところ「中国発の金融危機リスク」はあるのか?

世界の金融機関が中国に貸しているカネは9171億ドルだが…

 昨日の『中国「総資産39兆円」企業の経営不安と日本への影響』では、中国最大級の不動産デベロッパー「恒大集団」の経営危機に関し、「経営破綻した場合のインパクトは凄いが、同社単独の経営破綻が国際社会(たとえば日本)に与える影響は限定的」と申し上げました。本稿のはその続きで、ちょうど公表されたばかりの国際決済銀行の国際与信統計を使い、「金融」という面での中国と世界のつながりを確認しておきましょう。


「恒大集団」の経営破綻説

●流動負債でファイナンス:リスキーな財務モデル

 昨日の『中国「総資産39兆円」企業の経営不安と日本への影響』では、中国最大級の不動産会社である「恒大集団(エバーグランデグループ)」の経営危機について、「金額の見た目は非常に大きいが、少なくとも日本に与える影響は限定的ではないか」とする当ウェブサイトなりの見解を「速報」的にお伝えしました。

 もちろん、ただのデベロッパーが自己資本の6.6倍にまで資産規模を膨らませ、日本円にして流動資産に32兆円相当(※おそらくは取得原価主義)の開発中不動産を棚卸資産として抱え、運転資金を26兆円の流動負債でファイナンスしているというのは、大変にリスキーなビジネスモデルです(図表1)。

■図表1 恒大集団の連結貸借対照表(2020年12月末時点)
図1


(【出所】恒大集団・『投資家向けレポート・年次報告書』ページの『2020年アニュアルレポート』【※PDF】P79~80を著者要約。金額は「百万人民元」単位なので要注意)

●世界的な危機に波及するのか?しないのか?

 いや、「大変にリスキーな」、という言い方には、きっと語弊があるのでしょう。

 私たちの国・日本とはまったく違うルールが適用される中国のことですから、「鬼城」と呼ばれる、誰も住まないゴーストタウンをせっせとこしらえていたとしても、不動産の開発と販売が回り続けている限りは、きっと大丈夫な国だったのでしょう、多分。

 こうしたなか、改めて確認しておきたいのが、これが万一、「中国発の巨大デフォルト案件」に発展したとして、世界経済にどの程度の影響があるのか、という点です。

 もちろん、株式市場に対しては、短期的にはそれなりのインパクトがあったことは間違いないでしょう。

 ただ、より中・長期的には、この債務者がデフォルト(債務不履行)状態に陥った際、この国にどの程度の連鎖破綻が生じるのか、そして海外の金融機関や投資家がこの国にどの程度の金銭債権(金融機関貸付金や債券)、デリバティブなどのエクスポージャーを持っているか、という視点の方が、遥かに重要です。

 結論から言えば、「中国の企業や公的機関などが外国から借りているおカネが全額返せなくなった」という極端な事態でも生じれば、国際社会にはそれなりのインパクトを与えるかもしれませんが、ただ、もしそうだったとしても直ちに「リーマン」級の損害を世界経済に与えるとは思えません。

●恒大集団の問題は現物資産の範囲に限られるはずだが…

 そう判断する根拠は、いったい何でしょうか。

 そもそも、「恒大集団」の連結貸借対照表を信頼するならば、同社はデリバティブ取引(オフバランス取引)自体をほとんど行っていません。

 2019年12月期の連結貸借対照表に計上されているデリバティブ負債の金額は46.66億元、つまり1元≒17円で換算しても、せいぜい791億円に過ぎず、正直、想定元本数京円というデリバティブの世界においては存在しないのと同じです。

 というよりも、中国という国自体がグローバルなデリバティブ・マーケットにおいて存在感を持っていないため、「リーマンからAIG」、「証券化エクスポージャー・再証券化エクスポージャーのポジション」、といった2008~09年のときのような問題は生じ様がないのです。

 したがって、「恒大集団」の問題は、あくまでも現物資産の範囲に限られます。

 次に、「恒大集団」自体は金融機関ではありません。あくまでも不動産デベロッパーです。

 中国の国内銀行が同社グループに相当のカネを貸し込んでいた場合、「恒大集団」の経営危機は中国の金融機関の経営問題、そして金融システム全体の健全性の問題に発展しかねませんが、それはあくまでも「二次被害」の話であり、経営破綻するのが同社だけだとすれば、中国国内で何とかなる問題でもあります。

 もっとも、中国リスクの怖いところは、全容が見えないところであり、また、政治リスクが強すぎるところです。

 サイズがサイズだけあって、今回、「恒大集団」のが何らかの形で経営破綻に追い込まれたとして、それが「引き金」となり、有象無象の不動産デベロッパー業界全体に危機が波及し、信用がどんどんと目詰まりしていき、やがて中国全土で猛烈な信用収縮が生じるとしたらどうなるのか。

 あるいは、「恒大集団」の経営破綻に端を発する連鎖破綻により、中国の商業銀行のなかに経営破綻に追い込まれる社も出てきた場合、中国の金融システム全体の健全性に問題が波及するのかどうかについては、大変に楽し気になる点でもあります。

 このあたり、中国という国の統計自体がよくわからないという事情もあるため、蓋を開けてみなければどうなるかが読めない、というのも事実でしょう。

●BIS統計から見える中国

 ただ、中国の統計があてにならないのだとしても、中国以外の国が中国にいくらお金を貸しているかという統計ならば信頼できます。

 そのような都合の良い統計が存在するのしょうか。

 結論からいえば、存在します。で

『「カネから見た国際関係」と世界最大の債権国ニッポン』でも使用した「国際与信統計」、すなわち国際決済銀行(BIS)が世界の主要31ヵ国・地域に本店を持つ銀行を対象に調査した、国際的な与信状況に関するグローバル・ベースでの四半期統計がそれです。

 現時点では日本が取りまとめたものは2021年6月末分まで整っていますが、グローバルベースに関してはまだ、2021年3月末までのものしか出ていません。ただ、それでも国際与信の状況を見るうえでは、十分でしょう。

 なお、データ自体はBISのウェブサイトの統計データ一括ダウンロードページ “Download BIS statistics in a single file” full_data_setsで手に入る “Consolidated banking statistics” というシートが便利です(ちょうど現地時間の9月20日付で更新されたばかりです)。

 これの「最終リスクベース(※)」で「どの国がどの国に対しておカネを貸しているのか」を分析していくと、大変興味深い事実がいくつか判明します(※なお、統計データの「所在地ベース」と「最終リスクベース」の違いは下記のとおり)。

■所在地ベース


与信先の所在地によって一律に国・地域別に分類する考え方。たとえば日本の金融機関が米国に拠点を持つ日系企業に対してカネを貸した場合は「米国向け」とみなす。
■最終リスクベース


与信先の所在地ではなく、「与信の最終的なリスクがどこに所在するか」を基準に国・地域別の分類を行うもの。ある銀行の外国支店に対する与信はその銀行の本店所在国への与信とみなほか、保証やクレジットデリバティブ、担保などによる信用リスクの移転を勘案する。

債権債務の詳細と中国

●世界の債権国で日本はトップ

 そもそも国際与信統計自体、データを提出している国が31ヵ国しかありませんが、この31ヵ国は、米国、英国、日本、ドイツ、フランスなどの「グローバルな金融大国」ばかりが含まれているため、世界的な統計としては十分です。

■図表2 世界の債権国一覧(2021年3月末基準)
zu2

(【出所】 Bank for International Settlements “Download BIS statistics in a single file” のページにある “Consolidated Banking Statistics” を著者加工)

 これによると、国境を越えた与信活動は、総額がだいたい31兆ドル弱、といったところです。

 世界最大の債権国が5兆ドル近くを外国に貸し付けている日本であるというのにも驚きですが、日本以外には米国、英国、フランスなどの欧米諸国が上位債権国に登場します(カナダが国際与信で5位に食い込んでいる理由は、国境を越えて米国の企業や家計にカネを貸しているからでしょうか?)。

 また、これらの国々には、たいていの場合、G-SIB(グローバルなシステム上重要な銀行)の本店所在地があります。日本だと3メガバンク、米国だとBofAやBONY、JPモルガンなど、スペインだとバンコ・サンタンデール、カナダだとRBC、オランダだとING、といった具合です。

 いずれにせよ、この「31兆ドル」という金額が、「主要31ヵ国の銀行の非居住者に対する与信(エクスポージャー)」だと考えて間違いないでしょう。

 (※もちろん、中国にもG-SIBは存在しますが、残念ながら中国はBISに対して国際与信統計を提出していません。)

●債務国のトップは米国、次いで英国

 さて、BIS統計には「債権国」が基本的に31ヵ国に限られてしまうという問題点があるのですが、その一方で、「債務国」、すなわち「この31ヵ国がカネを貸している相手国」に関しては、基本的に全世界のほとんどの国が含まれます。

 これを債務国順で並べ替えたものが、図表3です。

■図表3 世界の債務国一覧(2021年3月末基準)
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(【出所】 Bank for International Settlements “Download BIS statistics in a single file” のページにある “Consolidated Banking Statistics” を著者加工)

 図表2でも図表3でも、総額が30兆9888億ドルであるという点が共通している点については、いちおう確認しておきましょう。

●辛うじてマネージ可能

 そのうえで、「借りている国」の最上位にあるのが米国であり、金額も7兆4149億ドルに達し、グローバル与信の約4分の1が米国に集まっていることが確認できるでしょう。英国も2兆5779億ドルで世界2位につけています。

 また、5位にケイマン諸島が来ているのは、『「カネから見た国際関係」と世界最大の債権国ニッポン』などでも述べた、日本の金融機関によるケイマン籍SPVなどを使ったオフショア投資による影響が非常に大きいと考えられます(※著者私見)。

 一方、国際与信統計の「債権者」側で圧倒的な存在感を誇っていた日本は、債務者側では元気がありません。外国から借りているカネが1兆2515億ドルに過ぎないからです(※この金額は、『2000兆円に達する日本の家計資産:国債増発が急務』などで触れた資金循環統計上の金額ともだいたい整合しています)。

 そして、7位の香港(9268億ドル)、8位の中国(9171億ドル)を合わせれば、日本が借りている金額を大きく上回っているというのも興味深いところです。

 いずれにせよ、債務者側の統計に初めて中国が出てきたわけですが、その金額は香港を含めて1兆8439億ドル、香港を除けば9268億ドルであり、決して少なくない金額ではあるものの、国際与信全体では6%、中国本土に限定すれば3%という状況です。

 これを多いと見るか少ないと見るかは微妙ですが、このくらいの金額ならば辛うじてマネージ可能なレベルでしょう。

●対中与信最大の国は英国

 さて、中国に対してカネを貸している国を列挙していくと、これはこれで興味深いことがわかります(図表4)。

■図表4 中国に対する債権国一覧(2021年3月末基準)
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(【出所】 Bank for International Settlements “Download BIS statistics in a single file” https://www.bis.org/statistics/full_data_sets.htmのページにある “Consolidated Banking Statistics” を著者加工)

 トップに来たのは英国で、その金額は2449億ドルです。

 一方、英国と並ぶ金融大国であるはずの米国と日本の対中与信額はそれぞれ1322億ドル、1043億ドルであり、ことに中国の「隣国」であるはずの日本が対中与信で3番目というのも面白いところです(ちなみにこの1043億ドルという金額は、日本のタイに対する与信よりも少ないです)。

 また、金融の世界でほとんど存在感がない台湾と韓国の両国が、対中与信ではドイツを抑えてそれぞれ4位、6位に入っているというのも、重要な事実です。

 とくに台湾を巡っては、中国との「決別」を選んでしまえば、これらの対中投資の元本が回収できなくなってしまうかもしれない、という意味において、言葉は悪いのですが、「カネを人質に取られている」ような状態だといえるかもしれません。

これを機にポート見直しを!

いずれにせよ、中国発の信用不安が生じたときに、最も大きな打撃を受ける可能性がある国は英国であり、日本の金融機関についても、「影響をまったく受けないで済まされる」、というものではありません。

 ただ、ドル建てで5兆ドル、円建てで550兆円という国際与信の世界において、1000億ドル少々の対中与信の比率はせいぜい2%であり、これは決して「高い」とはいえません。

 したがって、「中国発・メガクラッシュ」が現実のものとなったとして、世界各国が「被弾」したとしても、まずは英国が大きな影響を受けますが、日本が受ける打撃はゼロではないにせよ、限定的です。

 もっとも、今回の事態は、日本の機関投資家が中国という国の「隠れ債務」、「政治リスク」など、かな~~~り以前から指摘されてきた問題点を直視する良い機会でもあります。

 日本の機関投資家もポートフォリオのアセットアロケーションを再検討し、さらなるリスク管理の徹底を図る好機が到来している、という言い方をしても良いのかもしれません


「新宿会計士の政治経済評論」より転載
https://shinjukuacc.com/20210922-01/

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