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中国のTPP加盟申請の「狙い」

 本日は、久しぶりに驚く話題がありました。中国が昨日夜、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を申請したと発表したというのです。といっても、中国が参加できるか、できないかを論じるよりも、むしろ大事なのは、「中国がこのタイミングでTPPに揺さぶりをかけてきた理由」、という論点ではないでしょうか。


中国がTPP加盟申請

 すでに複数のメディアが報じていますが、中国商務省は16日の夜、同国が環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を申請したと発表したそうです。

中国、TPP加盟を正式申請 アジア貿易主導権狙う


―――2021年9月16日 23:29付 (2021年9月17日 5:22更新)日本経済新聞電子版より

中国、TPP加入を申請 アジア太平洋主導権狙う


―――2021.9.17 0:34付 共同通信より

中国、TPP参加を正式申請 通商交渉で主導権狙う


―――2021年09月17日05時56分付 時事通信より

 これらのメディアによると、王文濤(おう・ぶんとう)中国商務相がTPPの事務局の役割を担っているニュージーランドのダミアン・オコナー貿易・輸出振興相に申請書類を提出したうえ、電話会談を行った、などとしています。

もっとも、「加盟に向けたハードルは高い」(日経)、「早期の参加は困難とみる向きも多い」(時事)のが実情でしょう。

 というのも、TPPへの新たな加盟には、全加盟国(※)の同意が必要であり、さらに要求される自由貿易の水準も高く、国有企業を補助金などで優遇することが禁じられるため、現在の中国がTP加入要件を満たすのは非常に困難だからです。

 (※TPP加盟国は、豪州、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナムの11ヵ国。)

WSJ「米中争いの一環」

 ただし、ここで重要なのは、「なぜ、中国がTPPへの参加を表明したのか」ではないでしょうか。

 これに関し、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に先ほど、興味深い記事が掲載されていました。中国のTPP参加表明は、ちょうど「オーカス(AUCUS)」と呼ばれる、米英豪3ヵ国の新たな安全保障枠組みにぶつけて来たものだ、という見解です。

China Seeks to Join Pacific Trade Pact After U.S. Forms New Security Alliance 
―――2021/09/16 16:47 ET付 WSJより

 (※なお、リンク先は英文であり、有料契約していないと閲覧できない可能性がありますので、ご注意ください。)

 WSJの記事では、冒頭から「激化する米中競争のなかで、伝統的な米国の同盟国を中国の経済勢力圏に引き込もうとする試み」、などと述べています。

 英米メディアの、この手の「客観的事実」と記者の「主観的意見」を混ぜこぜにする書き方、個人的には大嫌いですが、それでも、WSJのこの見解自体は大変に参考になります。

 WSJも指摘するとおり、もともとTPPは米国がバラク・オバマ政権時代に提唱したものであるにもかかわらず、ドナルド・J・トランプ政権時代にその米国自身がTPPから離脱した、という経緯があるのですが、逆に、中国としては「米国の伝統的な同盟国」を経済圏に取り込む狙いがある、というわけです。

 このあたり、成功すれば、中国にとっては大変に痛快なものでしょう。

 おそらく中国としては「自国の改革を通じてTPPへの参加要件を整える」意図などは最初から持っておらず、「14億人の市場」、「一帯一路」などの「ニンジン」をぶら下げ、TPP自体を形骸化して自国に取り込むのが本当の目的ではないでしょうか。

 すなわち、TPP11ヵ国の間で、「ぜひとも中国にはTPPに入ってもらいたい」、「中国が参加しやすいように、TPPのハードルを下げよう」とする議論が高まることを狙っているのかもしれません。

逆に、中国が「TPPに参加できる理由」が見当たらない

 もちろん、自分自身で書いていて、「まさか、そんなことはありますまい」と言いたくなってしまいますが、ただ、逆に「中国にそのような意図がある」とでも想定しなければ、中国のTPP参加意思表明という行動の合理的な説明がつかないのです。

 現在の中国の行動は、そのくらい支離滅裂だ、と言えばよいでしょうか。

 もっとも、もしこの見方が正しかったとして、そううまく行くものでもありません。

 というのも、中国を巡っては、「一帯一路」構想と並び、自国が主導して発足させた「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」が事実上の失敗に終わりつつあるという状況にあるからです(『日米が「乗り遅れた」AIIB発足6年目のお寒い現状』等参照)。

 「14億人の市場」と言いながら、中国に対して貿易黒字を計上している国は、韓国などごく一部に限られており、主要先進国(とくに米国や日本)は毎年、中国に対して膨大な貿易赤字を計上しています(日本に関しては『台湾が韓国を抜き「3番目の貿易相手」に浮上した意味』等参照)。

 少なくとも中国自身が喧伝する「中国夢」を巡っては、正直、そのメッキが剥げ落ちているように思えてなりません。

 これに加え、日本とは東シナ海で、ベトナムとは南シナ海で、豪州とは貿易摩擦問題で、それぞれ中国と緊張関係にあることを忘れてはなりません。

 また、昨年の香港に対する国家安全法の適用で公然と英中共同声明を破ったことや、冒頭に示した日経電子版の記事にもあるとおり、9月から「データ安全法」などでデータの国外持出を禁止するなどの「データ統制」を強化しているなど、国際的に反発を買うような行動に出ていることも見逃せません。

 このように考えていくと、「中国がTPPに参加できるか、できないか」を論じる以前の段階として、「中国がTPPに参加できる理由」自体が見当たらない、と述べた方が正確ではないでしょうか。

 いずれにせよ、現状で見るならば、よっぽどのこと(たとえば日本で「枝野幸男政権」が発足する、などの事態)が発生しない限り、中国のTPP参加は実現しないと見るのが正しそうですし、個人的な意見ですが、TPPに新たに参加する可能性としては、中国よりも英国の方が高いと見るべきではないかと思う次第です。


「新宿会計士の政治経済評論」より転載
https://shinjukuacc.com/20210917-02/

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