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基本的価値共有する英国のTPP参加表明は歓迎すべき

 欧州連合(EU)から離脱した英国が、TPPへの参加を申請するようです。日本はこの動きをどう受け止め、どう考えるべきでしょうか。これについて考えるうえで重要な視点が、「基本的価値の共有」です。いうまでもなく、日英両国は地理的条件も似ているほか、法治、自由・民主主義といった基本的価値を深く共有しています。英国のTPP参加表明は歓迎すべきですが…。


●外交は人間関係の延長で議論すべし

 これは、当ウェブサイトで常々申し上げている主張です。

 「外交」などというと、小難しいことを主張する人もいるため、私たち一般人からすれば、なんだか「遠い世界」のことだと勘違いしてしまいがちです。酷いケースになるとなかには「外交は人間関係と違って好き嫌いで議論してはならない」、などとドヤ顔で主張する御仁もいらっしゃいます。

 とくに「チセーガク的に見れば、どうたら、こうたら」といった主張を見れば、「外交の専門家」ではない人たちからすれば、「普通の人間関係と同じ感覚で外交を議論してはならない」と言われると、「あぁ、そんなものか」と思ってしまうケースもあるでしょう。

 しかし、こうした考え方は、大きな間違いです。

 外交とは、平たく言えば「国と国とのおつき合い」の話ですが、国というのも結局は人間の集まりに過ぎません。だからこそ、普通の人間関係の延長線上で議論するのは何も間違っていませんし、そればかりかか、むしろ外交は「一般人の感覚で」議論しなければならないものです。

 人間関係では「ウマが合う相手」とのおつき合いもあれば、「なんだかいけ好かない相手だけれども、利害関係があるから、仕方なしにおつき合いしなければならない」という場合もあります。前者の典型例は親友や恋人、後者の典型例は職場(たとえば嫌な上司)でしょう。

 国同士の場合もまったく同じことがいえます。「国同士、自然と仲良くなる」という幸運な事例ものあれば、「心の底から打ち解けることはできないけれども、仕方なしに付き合わなければならない」、「どうしても打ち解けられず、争いが常態化してしまう」というケースもあるからです。

●異なる価値観の国と付き合うのも大変だ

 たとえば、ある2ヵ国について「同じ言語を話している」、「もともとは同じ民族である」、といったケースだと、その2ヵ国は文化的には非常に近いということであり、非常に仲良くなる可能性があります(※もっとも、某半島のように、南北でいがみ合う事例もあります。近親憎悪でしょうか?)。

 また、同じ民族同士でなかったとしても、「同じ宗教を信奉している」、「同じような価値観を共有している」という事例であれば、お互いに話をするときの議論のベースをある程度は共有しているということであり、そうでないケースと比べれば仲良くなりやすいはずです。

 しかし、基本的な価値の部分でお互いに相いれない2ヵ国は、たいていの場合、不幸です。

 とくに国境を接している2ヵ国が価値を共有していない場合や異なる民族同士の場合だと、お互いにいがみ合っている事例も大変に多いと聞きます(中国とインド、アゼルバイジャンとアルメニア、イスラエルとパレスチナ、米国とメキシコなど)。

 個人的には、日本が島国で良かったと心の底から思うこともあるのですが、これは「異なる価値観を持つ人々が陸路を越えて続々とやって来る」という事態に直面しなくて済むからでもあります。その典型例が、宗教でしょう。

 こうしたなか、日本は古来、宗教に寛容だとされていますが、それでも宗教がらみでは、日本にやってきた外国人がさまざまなトラブルを起こすという事例もあります。

 たとえば、不法滞在で摘発され、入管に収容された外国人がイスラム教徒であった場合に、「誤って豚肉関連の食材を提供してしまった」などとして、一部メディアから入管が叩かれる、という事例は以前からしばしば報告されています。

 もちろん、収容されている外国人に対しては、可能な限り、処遇には配慮が必要です。しかし、それと同時に日本はイスラム教国ではありませんし、流通する食材に「ハラール認証」を付与しなければならないといった法律は存在しません。

 だいいち、日本国内において、豚肉やアルコールを摂取するというのは「禁忌」ではありませんし、豚由来の食材に加え、しょうゆやみりんなどについても、アルコール由来の成分が含まれているために、イスラム教徒はうかつに口にできない、という説もあるようです。

 もちろん、イスラム教徒の方々が「ハラール」の食材を求める権利はありますが、日本社会がイスラム教徒に配慮しなければならないという義務はありません。正直、日本の文化や社会に根差した食品を、わざわざイスラム教徒に合わせること自体、無理がある考え方ですし、コスト的にも割に合わないからです。

●インドネシアの事例

 さて、文化という意味では、ほかにもさまざまな問題が生じます。

 私見ですが、日本人には「(ときとしてバカ正直に)ルール、法律、約束を守る」、という特徴があると思います。しかし、外国のなかには、「ルール、法律、約束は破るためにあるものだ」、などと考える国もあり、こちらがバカ正直にルール、法律、約束を守ると割を食うこともあります。

 そういえばインドネシアの鉄道敷設案件で、日本企業のコンソーシアムが多大なコストをかけて路線調査を行い、レポートを出したところ、そのレポートを中国に横流しし、案件自体が中国にかっさらわれた、という事例が報じられたことがありました(『インドネシアの「良い所取り」を許すな!』等参照)。

 調べてみると、インドネシアを巡っては、ほかにも外国との約束を守らない事例がたびたび存在するようです。正直、このような国を相手にするのも疲れますが、それでも日本は中国の「一帯一路」に対抗するため、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を推進しなければなりません。

 このように考えると、本来、約束破りのコストは相手国に負担させなければなりませんが、だからといって「腹が立つから断交!」などと気軽に述べるべきでもないのです。

●基本的価値を共有する国を大切にすべき

 さて、政治学者のなかには、「日本が採用する民主主義、自由主義、法治主義(または法の支配)、平和主義は、いずれも西欧の真似であり、日本の本来の価値観ではない」などと主張する者もいますが、個人的にはこの主張については半分は正しくとも、半分は間違いだと思っています。

たしかに、日本の政治・社会体制については西欧のそれを模していることは間違いありませんし、日本が採用している民主主義の考え方の背景には、西欧社会におけるフランス革命などの事件、マグナカルタなどの法典などの存在があることは事実でしょう。

 しかし、それと同時に日本において自由・民主主義や法治主義はじつによく根付いています。なぜなら、これらの考え方は、日本が昔から大切にしてきた価値観とも親和性が非常に高いからです。

 では、日本が大切にしている価値観とは、いったい何でしょうか。

 これも私見で恐縮ですが、日本社会の根源には、「ウソをつかない」、「ルールを守る」、「正当に努力する」、「困っている人を助ける」、といった行動原理があるのだと思います。そして、これらの行動原理こそ、自由主義、民主主義、法治主義などの西欧社会の行動原理と合致していたのです。

 このあたり、同じ東アジアでも、中国などとは大きな違いがあるのかもしれません。日本では自由・民主主義、法治、人権尊重などの基本的価値が根付く一方で、中国では全体主義、共産主義、人治・情治、人権軽視などの考え方がまかり通っているからです。

 ただし、当ウェブサイトとしては、これらについては「良し悪し」という価値観で議論するつもりはありません。中国は中国、日本は日本であり、どちらが正しい、間違っているという話ではないからです。相手国を変えようとは思ってはなりません。重要なことは、「相手国は日本と違う国だ」と認識することです。

 そのうえで、基本的な価値を共有しない国とはそれなりのおつき合いにとどめつつ、基本的な価値を共有する国々との連携については強めていくことではないでしょうか。このように考えていくと、英国がTPPへの参加を表明する見通しだとする週末の報道は、じつに歓迎すべき話でもあります。

英、TPP参加を正式表明 初の新規加入で拡大機運
―――2021年01月31日07時44分付 時事通信より

 英国のTPP参加表明は、欧州連合(EU)から離脱した英国が、欧州の代替として、太平洋諸国に参加してくるという試みと理解することができます。これも英国なりの判断に基づくものでしょうが、重要なのは「日本がこれをどうとらえるか」です。

●「1~20の連携」

 以前からしばしば申し上げている「1~20の連携」(図表)も、価値と利益を共有し得る国(とそうでない国)をうまく取りまぜながら、是々非々で連携を進めていくという考え方だと理解しています。

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(【出所】著者作成)

 このうち「日本単独」というケースは、何が何でも避けねばなりません。孤立主義は破滅への道だからです。

 一方、「2」にある「日米同盟」は、日本にとっては最も重視すべき外交関係ですが、それと同時に現在のバイデン政権の外交が今ひとつ読めないということを踏まえると、やはり同盟は重層化しなければなりません。

 この点、まことに残念な話ですが、「3」にある「日米韓」、「日中韓」については、すでにまともに機能しているとは言えません。実質破綻状態にあります。

 しかし、「4」にある「日米豪印クアッド」、「5」にある「クアッド+英国」、「6」にある「クアッド+英仏」、「ファイブアイズ+日本」、といった連携の枠組みが成立しつつあることは、素直に歓迎して良いでしょう。

 要するに、日本が国益の最大化を図るうえでは、軍事的には「クアッド」、経済的には「TPP11」、情報的には「シックスアイズ」、先進国クラブとしては「G7」といった具合に、日本自身が積極的に、さまざまな連携の枠組みに所属すべきなのです。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 ただし、英国の動きのすべてを無条件に歓迎すべきかどうかについては、話が別です。ことに、英国といえば、今年のG7議長国でもありますが、先日は英国がG7に豪州、インド、韓国を招く、などと発表しています。しかし、安易なG7拡大の動きには慎重であるべきでしょう。

 ことに、豪州はともかく、インドと韓国がG7に参加すること自体、「基本的価値を共有する国々」の協議体であるG7を変質させかねません。なぜなら、彼らについてはG7諸国と基本的価値を共有しているとは言い難い面があるからです。

 日本にとって豪州とインドはクアッドで、韓国は(形骸化しているとはいえ)「日米韓」「日中韓」で、それぞれ連携できているわけですから、豪州はともかく、わざわざ印韓両国をG7に招き入れるのに賛同する必要はありません。

 いずれにせよ、英国の動きも、日本にとっては是々非々でうまく対処していくべきものであることは間違いないでしょう。


「新宿会計士の政治経済評論」より転載

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