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安倍長期政権と日本経済

鈴木政経フォーラム代表 経済学博士 鈴木 淑夫

低成長の真因は供給側に
新規企業の市場参入促進を

鈴木 淑夫

鈴木政経フォーラム代表
経済学博士 鈴木 淑夫

 安倍晋三首相が憲政史上最長の連続在職日数という記録を残して退任する。ここで大切なことは、「何日間在職したかではなく、何を成し遂げたか」であろう。

 安倍首相は、着任早々、①大胆な金融緩和②財政出動③経済構造改革―の3本の矢からなるアベノミクスを高々と打ち上げ、2%の物価上昇を実現し、日本経済を発展させるとした。これに伴う政府と日本銀行の共同声明に基づき、日本銀行は長期国債など資産の大量購入、これに伴うマネタリーベースの巨額供給という異次元金融緩和を開始し、途中でさらに購入資産の種類と量の拡大、マイナス金利政策の導入、10年物長期国債の市場金利のゼロ近傍への誘導などを追加した。

 これによって景気上昇は続き、18年までに企業の売上高経常利益率は史上最高となり、失業率は2%台に下がって完全雇用を実現した。金融政策の最終目標は達成された。

見立て誤ったリフレ派

 しかし、全国消費者物価(除、生鮮食品)の前年比は平均1%弱にとどまり、最終目標が達成された下で、中間目標(最終目標の手段)の2%物価上昇は「無用の長物」と化した。

 その後、景気上昇は2018年10月をピークに自律的、循環的な下降局面に入ったが、安倍政権は景気後退下の19年10月に消費増税を実施し、景気後退を加速する誤りを犯した。続いて大型台風とコロナ禍に見舞われ、本年5月の大底まで景気は大きく落ち込んだ。

 以上のような安倍政権のマクロ経済政策の背景には、アベノミクスの根底にある政策思想が関係しているように思われる。安倍政権は多くのリフレ派の学者を内閣顧問や日銀の役員・政策委員に起用した。日本経済停滞の原因は、1990年代以降の金融政策の引き締めバイアスによる需要不足にある、というリフレ派の意見に賛同したからである。

 これに伴い、日銀は物価上昇率が2%を超えて続くまで異次元金融緩和を続けるとコミットし、それを8年間続けた。しかし人々の予想成長率と予想物価上昇率は上昇せず、成長率は平均1%強、物価上昇率は平均1%弱にとどまった。日本経済停滞の原因が、日銀の引き締めバイアスという需要側にあるというリフレ派の見立てが、誤りであったのだ。

 日本経済の低成長の真の原因は、需要側ではなく、全要素生産性上昇率の低下と生産年齢人口の減少という供給側にあった。安倍政権は供給側を重視せず、③経済構造改革というアベノミクスの3番目の矢は画餅に帰した。

 最近の実証分析によると、日本経済の生産性上昇率が米国よりも低いのは、個々の企業の生産性上昇率に日米の差があるからではなく、米国では新しい技術を持つ生産性の高い新規企業の市場参入が盛んで、旧態然とした企業の市場退出が多いからだという。これに対して日本では、古い技術と雇用形態を維持した企業が市場に生き残り続け、新しい技術を体化した生産・雇用形態を持った生産性の高い新規企業の市場参入が少ないという。

 このことは、コロナ禍と対峙(たいじ)する当面の経済政策に対して、重要な示唆を与えてくれる。雇用調整助成金や持続化給付金は、コロナ禍により突然需要を失った企業に対する短期の資金繰り支援としては意味がある。しかし、抜本的な生産・雇用改革を行わず、休業などで切り抜けようとする企業への単なる助成であっては改革にならない。

生産性高める政策必要

 雇用を現存企業の保護で守ろうとするのではなく、労働者が企業間をスムーズに移動できるようにする労働者個人への支援が大切である。またリモートワークに対する助成も、コロナ対策の一時的便法としてではなく、仕事の在り方を根本的に組織変えして、生産性を高めようとする企業の助成策として必要なのである。コロナ禍を奇貨として、生産性の停滞した古い企業の市場退出と新しい技術と組織を持った企業の市場参入を進め、日本経済全体の生産性を高めることが、次の政権に強く求められている。

(すずき・よしお)

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