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韓銀、米韓為替スワップのうち120億ドル分を実行へ

 先ほどの『【資料】リーマンショック時に実行された為替スワップ』の続きです。隣国では本日、上限600億ドルの米韓為替スワップに基づき、ドル資金の流動性供給入札が実施されるそうです。まさか、金融市場の「流動性供給入札」だの、「為替スワップ極度額」だの、「適格担保」だのといった専門用語を当ウェブサイトに掲載するときが来るとは思ってもみませんでしたが(笑)、本稿では少々、為替スワップ(流動性ファシリティ)に関する専門的な用語も交えつつ、米韓為替スワップに基づく借入についてレビューしておきましょう。


●リーマン後の為替スワップ


 今朝方の『【資料】リーマンショック時に実行された為替スワップ』では、米国が2007年から2008年にかけて世界の14ヵ国・地域の中央銀行・通貨当局と締結した為替スワップ(ドル流動性供給ファシリティ)がどう機能したかについて紹介しました。

 一般に、為替スワップは英語で “liquidity swap line” などと呼ばれるとおり、上限額を設定した一種の「融資枠」のようなものであり、 “swap line up to 60 billion dollars” といえば、「極度額600億ドルのスワップ借入枠」、という意味です。

 実際、今回の為替スワップについても、 “U.S. dollar liquidity arrangements (swap lines)” と記載されているのがご確認いただけるでしょう。

Federal Reserve announces the establishment of temporary U.S. dollar liquidity arrangements with other central banks


The Federal Reserve on Thursday announced the establishment of temporary U.S. dollar liquidity arrangements (swap lines) with …<<…続きを読む>>
―――2020/03/19 9:00 a.m. EDT付 FRBウェブサイトより(※下線部は引用者による加工)

 そして、基本的に為替スワップに基づく民間金融機関の借入額は、設定された極度額の範囲内に収める必要があります。

 先ほどの『【資料】リーマンショック時に実行された為替スワップ』でも紹介したとおり、2008年の金融危機の際には、日本銀行、欧州中央銀行(ECB)、英イングランド銀行(BOE)の3つの中央銀行において、スワップ引出額が当初設定された極度額を超えていました。

 ただし、これらの3中銀については、2008年10月13日と14日に、相次いで引出可能額の上限が撤廃されているため、結果的に極度額を超えても問題がなかったのです。

Federal Reserve and other central banks announce further measures to provide broad access to liquidity and funding to financial institutions(2008/10/13 2:00 a.m. EDT付 FRBウェブサイトより)


FOMC authorizes an increase in the size of its temporary reciprocal currency arrangement with the Bank of Japan(2008/10/14付 FRBウェブサイトより)


●東亜日報「120億ドルの流動性供給」

 さて、隣国のメディア『東亜日報』(日本語版)に昨日、こんな記事が掲載されていました。

韓米通貨スワップ資金の第1弾、120億ドルを供給へ(2020/03/30 08:17付 東亜日報日本語版より)


 東亜日報によると、米韓「通貨スワップ」(※原文ママ)に基づく資金600億ドルのうち120億ドルが、4月2日に「市場に供給される」のだそうです。

 「市場に供給される」と言っている時点で、これが「通貨スワップ」(中央銀行同士の通貨交換)ではなく「為替スワップ」(民間金融機関に対する流動性ファシリティ)であるということに、この記事の記者がなぜ気付かないのかは不思議でなりませんが、その点はとりあえず無視しましょう。

 東亜日報が報じた韓国銀行の発表内容は、次のとおりです(※便宜上、「通貨スワップ」と誤記されている部分については「為替スワップ」に修正しておきます)。

・今回の為替スワップに基づく貸付は3月31日に入札が実施され、4月2日に実行される

・入札は、落札者が提示した金利をそれぞれ適用する「複数価格方式」で実施される

・入札に参加することができるのは輸出入銀行と産業銀行、企業銀行などすべての銀行

・韓国銀行は外貨融資額の110%を担保として受け取ることとし、適格担保は国債、政府保証債、通貨安定証券が優先されるものの、不足すれば銀行債、住宅金融公社の住宅抵当証券、ウォン現金も担保として認める

…。

 「複数価格方式」を除けば、この実施条件は、まさに典型的な為替スワップ(流動性供給)そのものですね。

 担保額に比べて融資額がカットされることを、一般に「担保掛目」、「ヘアカット」などと呼ぶのですが、最近の為替市場のボラティリティに照らせば、むしろこの掛け目は低すぎないかと思います(※当たり前ですが、民間金融機関がスワップ資金を返せない場合には、韓国銀行が肩代わりします)。

 ちなみに為替スワップにおいては、適格担保については引出国の中央銀行が決めます。この場合は韓国銀行が適格担保を指定し、その担保と引き換えにドル資金を提供するのです(韓国銀行はその時点の為替相場に基づく韓国ウォン資金をFRBに預けます)。

 そして、その時点の為替相場がウォン安になっていれば、担保としてFRBに積むべきウォンの金額も増えてしまうため、もしかすると韓国銀行は本日、為替介入をするかもしれませんね(※さすがに考えすぎでしょうか?)。

●前回のドル供給スワップの実績

 ちなみに前回の米ドル供給為替スワップについても、基本的には入札方式で実施されました。

 米FRBの “Central Bank Liquidity Swap Lines” というページから取得できるデータによれば、韓国銀行を通じて韓国の民間銀行に供与されたスワップの額、当時の利息と為替相場は図表1のとおりでした。

■図表1 2008年の為替スワップに基づく融資(全19回分)

図表1

図表1


(【出所】FRB “Central Bank Liquidity Swap Lines” より著者作成)

 ただし、この19回のスワップ引出は、基本的に期間84日~85日の短期資金ばかりです。というよりも、じつは数多くのスワップの引出がなされているようにも見えますが、6回目以降はいずれも借換(ロール)であるため、実質的には為替スワップに基づく借入金は5本です。すなわち、

・第6回目のスワップは第1回目の借り換え
・第7回目のスワップは第2回目の借り換え
・第8回目のスワップは第3回目の借り換え
・第9回目のスワップは第4回目の借り換え
・第10回目のスワップは第5回目の借り換え
・第11回目のスワップは第6回目の借り換え…

といった具合ですね。

 しかも、初回の借入については、適用金利は6.84%、為替相場は1ドル=1459.0ウォンでしたが、最後の借入については、適用金利は0.76%、為替相場については1ドル=1246.8ウォンに落ち着いています。

 また、韓国が借り入れていた金額については、最大でも163.5億ドルであり、融資枠(300億ドル)を使い切ってはいませんでした(図表2)。

図表2 韓国銀行を通じて韓国の民間金融機関が借り入れていた為替スワップに基づく流動性供給額

図表2

図表2

(【出所】FRB “Central Bank Liquidity Swap Lines” より著者作成)

 このことから、韓国がリーマン・ショック直後、最も流動性が逼迫していたのは、金利的には2008年12月頃、資金的には2009年2~3月頃だった、ということであり、その後は徐々に金融市場が落ち着きを取り戻し、韓国が短期流動性を必要としなくなった、ということが、数字の上でも明らかでしょう。

 (※ただし、これはべつに韓国に限ったことではありません。もし興味がある方は、FRBの “Central Bank Liquidity Swap Lines” というページから、エクセルデータ、CSVデータなどの形式で生データをダウンロードして検証してみてください。)

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 さて、『米国との為替スワップが存在しても為替は安定しない?』でも報告したとおり、そもそも為替スワップの本質は金融機関に対する相手国通貨の流動性供給であり、為替市場を安定させる効果はありません。

 しかし、ドルファンディング(=ドル借入条件)の逼迫状況を解消する上では、非常にパワフルなツールでもありますし、ドルファンディングが改善すれば、運が良ければ結果的に為替相場が安定する効果も生じるかもしれませんし、生じないかもしれません。

 本件について興味深い続報があれば、また取り上げたいと思います。


「新宿会計士の政治経済評論」より転載
https://shinjukuacc.com/20200331-03/

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