
昭和13年(1938年)北海道生まれ。拓殖大学政経学部卒業。エジプトのアズハル大学留学。現在、東京国際大学名誉教授。共著書多数。
深刻化する「ナクバの日」デモ
東京国際大学名誉教授 渥美 堅持
まさか本当にはやるまいと思っていたことが現実に実行された。トランプ米大統領の選挙公約として登場したエルサレムへの米国大使館移転宣言は、その影響の大きさから実行されないであろうと思われていた。しかし期待に反して米国大使館のエルサレムへの移転がイスラエル建国70年の記念日を期して実行された。

始まったかサウジ大変事
東京国際大学名誉教授 渥美 堅持
中東で最も危惧され、恐れられていたことが始動したのではないかとの懸念が世界に広がり、強い警戒感が抱かれる事態が発生した。それは国際世界全体にも衝撃を与え混乱の中に包み込む事態の到来を予感させるものである。

新たなIS生む混迷長期化
東京国際大学名誉教授 渥美 堅持
今から約6年半前の2010年12月、チュニジアで起きた若いイスラーム教徒の焼死事件がきっかけとなって、後に“アラブの春”と言われる騒乱が起きた。生活の苦しさから死を選んだ青年の行動はイスラーム教徒の行動として信じ難いものであったが、その後に起きた騒乱が示したように国旗が導く流れとなってイスラーム世界を駆け抜けた。

カタール・サウジ断交の背景
東京国際大学名誉教授 渥美 堅持
最近起きたアラブ世界の情勢の中で世界の多くの人に不可解な印象を与えた出来事としてカタール首長国をめぐる問題は一つの典型的なものとして印象付けられる問題であると言えよう。

決行された断食月のISテロ
東京国際大学名誉教授 渥美 堅持
イスラーム世界は6月6日の新月から7月7日の新月までの30日間、イスラーム歴9月のラマダン月(断食月)に入っていた。断食月は平和に過ごすことがアッラーによって命じられ、戦争状態の一時停止ばかりか日常生活においても争いごとを避けることが奨励されている。ムスリム、ムスリマは平和な暮らしを楽しむことを心がけ、クラーン(コーラン)を朗誦してアッラーの心に親しむ一方、家族一同で食事を楽しみ、団らんを謳歌することが良い教徒であると教示されている。

暗中模索のシリア和平会議
東京国際大学名誉教授 渥美 堅持
仲介者デミストゥラ国連特使の下、注目の「シリア和平会議」がジュネーブで3月14日に開催されてから8日が過ぎた。この間、会議に関する経過報告も討議内容も発表されず、その会議は闇の中にある。

実現性のないシリア和平案
東京国際大学名誉教授 渥美 堅持
アラブ・イスラーム世界では約束したり、予定を決めたりするときには「イン・シャア・アッラー」という言葉をもって締めくくるのが恒例である。「アッラーがそれを認めるならば」というこの言葉は「全ての事はアッラーがお決めになる」というイスラーム教の基本を日常的に表現した言葉でもある。100パーセント確実に事は成れると確信していても、アラブ・イスラーム世界ではその決定はアッラーにあると考え、現実に事が成るまで信じるということはない。

IS壊滅の機会を逸した世界
東京国際大学名誉教授 渥美 堅持
世界から最大級の非難を浴びながらも過激派組織IS(「イスラム国」)は存在を維持している。カリフを自認するバクダディなる人物は、上空を有志連合の戦闘機に覆われ、周辺をアラブ、クルド、トルコ諸族に取り囲まれ、米国、ヨルダン、イスラエル等の情報機関に包囲されながら拠点をユーフラテス川流域に置き、イラク西部ハジャラ沙漠からシリア沙漠一帯を影響下に置いて生き続けている。

過激集団IS「建国」から1年
東京国際大学名誉教授 渥美 堅持
昨年の6月末、イスラーム暦9月、断食の最初の日に建国宣言をイスラーム世界に発した「過激集団IS」は、「カリフ制の復活」という目標を掲げながら他宗教徒ばかりか非協力的なイスラーム教徒を惨殺し財産を掠奪(りゃくだつ)するという行動を繰り返し、世界はもとよりイスラーム世界からも大きな非難を浴びるに至っている。特に、世界の非難を浴びるに至ったのは、イラクに在する人類の遺跡とも言える「ニムルドの遺跡」、「ハトラ遺跡」を破壊したことで、怒りは頂点に達した。そして今、シリアの「パルミラの遺跡」をその影響下に置くことによって更なる非難を浴びることになった。

「過激組織IS」とイスラーム
東京国際大学名誉教授 渥美 堅持
シリア、イラクに広がる広大な沙漠にアラビアンナイトの亡霊に似た群団が突如と出現、水と食糧と財産を求めて扇形にユーフラテス川沿いに拡大北上、行く先々の町を占拠し、搾取し、多くの住民を殺害、挙げ句の果て「イスラム国」の建国、「カリフ制復活」を宣した。この盗賊にも似た集団の出現に国際社会もまたイスラーム世界も大いに戸惑ったのはその名前に由来するが、今、納得のいく名前が付けられた。「過激組織IS」である。

テロを招いたペンの暴走
東京国際大学名誉教授 渥美 堅持
新春早々おぞましい事件が花の都パリで起きた。かねてよりイスラーム教の預言者ムハンマドを風刺する画を掲載し、その都度問題を起こしていたフランスの週刊紙「シャルリー・エブド」のパリ本社が襲撃され、編集会議中であった著名な風刺画家3名を含む12名が死亡した。また翌日「イスラム国」を名乗る男女2人がユダヤ教の戒律に基づく商品を販売しているスーパーを襲い5名の死者を出す事件が勃発、2日間にわたるイスラーム過激派の連続攻撃に世界は大きく動揺、改めてイスラーム過激派に対する国際的な団結力が試されることとなった。

見えないガザ戦争解決の道
東京国際大学名誉教授 渥美 堅持
現在、世界にある都市の中で古い順の上位に入るかつての交易都市ガザが、再び戦乱の中に置かれた。キリスト生誕以前からその存在を世界に知られていたガザ市は、2009年1月、12年11月、そして今年7月と3度にわたってイスラエルの攻撃を受け、血煙と硝煙の中で多くのガザ市民とパレスチナ難民がいつものように犠牲となった。建物、生活ラインは破壊され、生き残った市民、難民は断食の月もその後に続く楽しい祝日も熱風の中での苦しい生活を余儀なくされた。

復讐と分裂の「イスラム国」
東京国際大学名誉教授 渥美 堅持
古来より西のナイル・エジプト、東のメソポタミア・イラクは、レバント(地中海東部沿岸の中東地域)を中軸として、釣り合い人形の弥次郎兵衛の如く中東世界のバランスをとってきた。イラクは北にトルコおよびクルドの地、西にシリアなどレバント、東にイラン、湾岸、そして南にアラビア半島と中東のど真ん中に位置しており、モザイク的形態が内在する国である。

「不透明」だったアラブの春
東京国際大学名誉教授 渥美 堅持
春の嵐のようにアラブの春は通り過ぎた。今や春雷の音も聞こえない。アラブ、中東はおろか世界を興奮させた革命という言葉は色あせ、犠牲になった人々の墓標が残された。組織も指導者も不在な運動は革命とはほど遠く騒乱とも言うべきものであった。国民が望んだ生活環境改革の声は沙漠の彼方に消え、意味のない破壊と魂の残骸だけが記憶の中で沙漠に現れる蜃気楼のように消えたり現れたりし、未だ硝煙と血の匂いが消えることはない。

新憲法を生んだアラブの春
東京国際大学名誉教授 渥美 堅持
アラブの春と呼ばれた連続的な騒乱事件は4年目に入った。チュニジアに端を発した騒乱は旧政権の体制を維持しながら大統領、国会議員を国民の手で選択するという結果をもたらしたが民主主義、自由、平等の確立とはほど遠い結果をもたらした。チュニジアにおいてもエジプトにおいても国政は一時的にイスラーム集団の手に委ねられたが、自由、民主主義からほど遠い国政が敷かれるに及んで政治は停滞し、生活環境の改善は遠のいた。

拒否されるシリア和平会議
東京国際大学名誉教授 渥美 堅持
民主主義を謳う思想もなく、自由を求める秩序もなく、集団をまとめる指導者も、そして運動を管理する組織もない中で始まった騒乱が、老醜の大統領の追放という決断を大統領周辺に与えて始まったアラブの春という現象は、3年を終えようとしている。しかし、その実態は民主主義と自由に満ち溢れ、憧れた個人主義に酔いしれるような世界ではなく、経済環境の悪化が一段と進み、老醜ゆえに決断力を失った前大統領の時代を懐かしむ声が、時には混乱の中で、時には流血の悲劇の中で聞こえている。
