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    元全国紙経済記者
    高橋 克明
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    「ニューヨーク BIZ」CEO 兼 発行人

    「日米大使不在」が示す“時の印”

     韓国紙中央日報(日本語電子版)の16日トップに、「ソウルには今、米国大使も日本大使もいない」という見出しの社説が報じられていた。それを読んで改めて驚いた。韓国にとって重要な戦略パートナー、米国と日本両国の外交代表が現在、ソウルに駐在していないのだ。もちろん、トランプ新米大統領誕生直後であり、まだ新任大使が決定されていないこと、釜山の慰安婦像設置問題に抗議して帰国した長嶺安政・日本大使がまだ帰任していないこと、この2つの外交状況が偶然重なって生じた日・米大使不在状況だが、その現実が示唆する内容は韓国にとって深刻なものがあるように感じる。

     大使が不在でも、日・米大使代理はソウルに駐在しているし、日米韓3カ国外相会議や国防相会議は開催されている。米韓両軍の慣例の軍事演習が3月初めから始まったばかりだ。安全保障の観点からみれば、大きな問題はないが、「韓国に日米大使が不在」という外交上稀な状況は北朝鮮に誤解を与えてしまう恐れがあるばかりか、韓国民にも少なくない影響を及ぼすのではないか。

     韓国内には反米、反日を掲げる民間団体が多い。彼らは、日・米両国大使の不在という状況に気づき、5月9日の大統領選に一層、拍車をかけるに違いない。北朝鮮と同様、韓国内の左派グループは在韓米軍の撤退を主要目標に掲げていることは周知のことだ。

     少し飛躍するが、選出された大統領に一通の招待状も届かず、外国の国家元首も誰も訪問しないという状況を考えてみてほしい。この状況は決して仮想世界のシナリオではない。実際、当方も目撃した現実だ。

     オーストリアで元国連事務総長クルト・ワルトハイム氏が大統領に選出(任期1986~92年)されたが、世界ユダヤ人協会などが「ワルトハイム氏はナチス・ドイツ軍の戦争犯罪に関与していた疑いがある」と批判。それを受け、欧米主要メディアが一斉にワルトハイム氏のバッシングを始めた。ワルトハイム氏自身は「私は一通訳将校に過ぎず、ナチス・ドイツ軍の戦争犯罪に関与できる立場にはいなかった」と弁明。国際戦争歴史委員会も同氏の主張を認めたが、バッシングは止まなかった。

     ワルトハイム氏が大統領時代、バチカン市国以外の招待状はほとんど届かず、他国の国家元首のウィーン訪問が絶えた。ワルトハイム氏は文字通り“寂しい大統領”であった。再選出馬を断念するまでその状況は続いた。

     国家元首の訪問が途絶え、招待状も届かない、といった状況を韓国国民は想像できないだろうが、ワルトハイム時代を目撃してきた当方は、「日・米大使のソウル不在」という現在の韓国と当時の状況が重なってくるのだ。
     人は失って初めて失ってしまった人、物の価値を感じて後悔する。同じように、同盟国の駐在大使のプレゼンスがどれだけ貴重か、韓国民は「大使不在」という現状から学ぶべきだろう。

     全ての事象にはそれが実際生じる前に何らかの印を見せるものだ。当方は「日・米大使のソウル不在」を時の印と感じている。韓国の現状は、ひょっとしたら我々が懸念する以上に深刻なのかもしれない。

    (ウィーン在住)

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