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    経済ジャーナリスト
    中村 仁
    中村 仁
    元全国紙経済記者
    高橋 克明
    高橋 克明
    「ニューヨーク BIZ」CEO 兼 発行人

    罷免された朴槿恵大統領の「老後」

     予想されていたことだが、韓国の朴槿恵大統領が10日、韓国憲法裁判所から大統領罷免の決定を言い渡された。韓国聯合ニュースによると、裁判官(8人)が全員、「罷免やむなし」と決定したという。議論の余地がなかったわけだ。韓国では大統領経験者の「その後」の運命に悲惨なケースが多いが、現職大統領が罷免されたのは初めてのことだ。

     朴大統領は大統領府を去った後、検察の逮捕、起訴が待っているという。聯合ニュースによると、「朴槿恵政権退陣非常国民行動(退陣行動)」は「大統領の罷免を勝ち取った」として、昨年10月から行っていた週末の大統領退陣集会を終了するという。
     韓国の政情は今後、60日以内に実施される大統領選挙に焦点が移る。誰が次期大統領に選出されるかで日韓関係にも大きな影響を与えることは必至だ。

     大統領も国民の一人だ。不法活動に対して、同じように処罰を受けなければならない。その意味から「朴大統領が憲法裁判所から罷免決定が下された」ということは韓国の法治主義が機能していることを実証したわけだ。退陣を要求してきた国民には勝利かもしれないが、当方はなんとなくしっくりとしないものを感じている。

     ところで、韓国では、任期後の大統領経験者に対して、事務所の提供や秘書官の配置、医療費免除などの特権が付与されているが、罷免された朴大統領の場合、その特権が剥奪されるという。聯合ニュースによれば、「毎月支給される1200万ウォンの特別年金も受け取らず、一般の国民年金の支給を受けることになる」という。

     このニュースを読んで、任期を満了することなく、辞任に追い込まれたウルフ元独大統領の「その後」を思い出した。「大統領職の任期を満了したい」と願ってきたウルフ氏はメディアから激しく腐敗を追及され、退陣に追い込まれた。退陣の理由は、2011年12月頃から、ニーダーザクセン州首相時代(2003~10年)の知人の実業家夫妻から低利の住宅ローン(50万ユーロ)を借りて住居を購入した問題、その内容をメデイアが報道しないようにメデイア機関に圧力を加え、そして映画会社から豪華な休暇の招待を受け、その謝礼に同社の利益を図った疑いなどだ。同州検察局が大統領の特権停止を連邦政府に要請したことを受け、「大統領職が行使できない状況下に陥った」と辞意を表明した。

     ウルフ氏の場合、朴大統領のように、弾劾裁判を受けた訳ではないし、その罪状も違うが、任期を満了できず退陣に追い込まれた点は同じだ。大きな違いはその後の「老後」待遇だ。

     ドイツでは大統領が任期を終え退職した場合、連邦大統領の恩給に関する法(Gesetz ueber die Ruhebezuege des Bundespraesidenten)に基づき、終身恩給(Ehrensold)が支給される。その額は年間約19万9000ユーロだ。それだけではない。車と秘書があてがわれる。それも任期満了でも途中辞任でも同様の扱いを受ける。ウルフ氏は大統領職を下りた後も年間20万ユーロの年金を受け、老後は金銭的には心配がない(「ウルフ氏(前独大統領)の老後対策」2012年2月20日参考)。

     罷免された朴大統領の老後とウルフ氏のそれを比較することはフェアでないかもしれないが、腐敗を追及され、最終的には辞任に追い込まれた大統領に対してもドイツでは老後生活を保証し、韓国ではそうでないわけだ。

     大統領職経験者への老後へのケアの違いは国力の差もあるだろうが、当方は大統領職への“尊厳の差”ではないかと感じている。任期を終えた大統領経験者が刑務所に送られたり、家族関係者の腐敗問題が追及され、自殺に追い込まれたりする韓国とは違い、ドイツでは大統領経験者に対して、一定の尊厳が守られている。

     換言すれば、大統領(経験者)に対し、敬意を払うということは、大統領を選出した国民(議会)の品格を維持し、国家に対し敬意を払うことを意味する。

     日韓の間で戦争時の過去問題が話題になると、韓国はこれまでドイツを例に挙げ、「日本もドイツのように過去の問題に対し真摯に対応すべきだ」と指摘し、「ドイツに倣え」と発破をかけてきた。当方は韓国国民に対し、「ドイツのように、大統領経験者に対して一定の尊敬を払うべきだ」と助言したい。

    (ウィーン在住)

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