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    元全国紙経済記者
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    「ニューヨーク BIZ」CEO 兼 発行人

    金正恩氏の公約と「現実」との深い溝

     36年ぶりに開催された第7回北朝鮮労働党大会は、新設された党最高位の党委員長に金正恩氏が就任したことを報じ、幕を閉じた。

     金正恩党委員長は開幕の演説で「核開発」と「国民生活の向上」を主要課題とした「並進政策」を掲げ、2016年から2020年の「国家経済発展5カ年戦略」を発表した。

     30歳代の若き独裁者は野心的な課題を掲げたが、当たり前のことだが指導者の真価はそれらの公約が実行できるかどうかにかかっている。核開発は別の機会に論じるとして、ここでは国民生活、国民経済の改善について少し考えてみた。

     基本的な疑問は、独裁者は国民の生活向上に本当に関心があるか、という点だ。金正恩氏は2011年12月父親の金正日総書記の死後、政権を継承して以来、「人民」の生活向上を機会ある度に強調してきた。

     具体的には、金正恩党委員長は政権就任直後、綾羅人民遊園地を完成し、平壌中央動物園の改修、そして世界的なスキー場建設など、国家プロジェクトと遊戯用インフラの整理に腐心してきた。空の玄関、平壌国際空港が近代的に改築オープンしたばかりだ。全ては「人民生活の向上」のため、という名目付のプロジェクトだった。

     2番目の疑問は、「空腹に悩まされる一般市民が遊園地やスキー場に足を運ぶか」であり、「海外旅行の自由もない人民に、国際空港の近代化はどんな意味があるか」だ。

     だから、金正恩氏の「国民の生活向上」は、「大多数の生活苦にあえぐ人民のためというより、指導部エリート層の生活向上のためのインフラ整備といった傾向が強い」という意地悪な批判も飛び出してくるわけだ(「金正恩の『ゲティスバーグの演説』」2015年10月14日参考)。

     ところで、オーストリア第2の都市グラーツ出身の映画監督 Pirmin Juffinger 氏は先日、4人の国際スノーボード選手らと共に北朝鮮を訪問し、金正恩氏が世界に誇るスキー場、馬息嶺スキー場を訪ねて撮影した。その後日談がグラーツの日刊紙「クライネ・ツァイトゥング」( Kleine Zeitung )に掲載された。記事のタイトルは「グラーツから北の幽霊スキー場へ」だ。金正恩党委員長が国民生活の向上のために党と軍に発破をかけ取り組んできた国家プロジェクトの“現実”を知るうえで参考となる。

     馬息嶺(Masikryong)スキーリゾートは平壌から東へ175km、元山市に近いところにある。2014年1月にオープンしたばかりだ。11本のコースが造成され、ゲレンデの下には、プール、カラオケバーなどが完備された高級ホテルがある。

     「5000人の観光客で一杯と言われたホテルは幽霊が出てきてもおかしくないほど、閑古鳥が鳴いていた」という。それだけではない。「滑降コースでスキーを滑っている人を見なかった」というのだ。また、一行が乗ったリフトは「今にも壊れそうな不気味な音を出していた。正直いって怖かった」という。帰路の高速道路には雪が積もっていたが、数百人の労働者が原始的なスコップで除雪しているのが目撃されたという。

     ちなみに、オーストリア国営放送は先日、北朝鮮現地取材のルポを報道したが、取材班が平壌のアパートメントを訪ねるシーンが放映された。北側の随伴者がその家の子供にバナナをあげた。北の子供はバナナも自由に食べられることを見せたかったのだろうが、バナナをもらった子供はその果物をどのように食べていいか分からず戸惑った。随伴者は慌てて、「早くバナナの皮をむいて子供に食べさせて」と、促す場面が映っていた。

     金正恩氏のやる気は評価しなければならないが、国民が今、何を求めているか、彼らの日常生活はどうか、などの基本的な情報が同氏には致命的に欠けている。「どこにあっても独裁者はいつもそうだよ」というならば、それまでだが……。心が痛くなるほど、金正恩氏の公約と現実の間には深い溝が横たわっているのだ。

    (ウィーン在住)

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