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  • 遠藤 哲也
    遠藤 哲也
    元日朝国交正常化交渉日本政府代表
    高永喆
    高永喆
    拓殖大学客員研究員
    宮塚 利雄
    宮塚 利雄
    北朝鮮専門家
    宋大晟
    宋大晟
    元世宗研究所所長
    上田 勇実
    上田 勇実
    韓国北朝鮮問題

    尹東柱をめぐる不毛な争い

     詩人・尹東柱(ユン・ドンジュ、1917年~45年)の「国籍」をめぐって中国と韓国が争っている。尹東柱は旧満州間島省の龍井に生まれた。現在の吉林省朝鮮族自治州である。太平洋戦争中の1943年、同志社大在学中に、「ハングルで詩を書いた」として治安維持法違反で捕らえれ、45年、収監されていた福岡刑務所で死亡した。繰り返し注射を打たれたことから、毒殺されたとの疑いもある。

    尹東柱(Wikipediaより)

     筆者は韓国の延世大留学中、授業で尹東柱の代表作「序詩」に触れた。日本人には少し居心地の悪さを感じさせるものだったが、在外韓国人や外国人を対象とする語学教育機関である延世大語学堂としては、東柱が延大の卒業生でもあり、「当然紹介すべき詩人の詩」という以外の底意はなかったように思う。こちらの構え過ぎだ。

     死ぬる日まで天を仰ぎ
     一点の恥もなきを
     葉あいにそよぐ風にも
     われは心痛めた

     ……

     獄死したことで、彼は抵抗詩人、愛国詩人に祀り上げられるが、母国語(朝鮮語)での詩作を進めた点からすれば民族詩人だ。序詩の訳でも、いまだに日本語ですっきりとしたものが出ていない。朝鮮語で詠まれたのだから、朝鮮語で味わうべき、という話だ。

     さて、この尹東柱をめぐって韓国が中国に噛みついた。朝鮮日報によると、「2012年に中国が龍井市明東村にある尹東柱の生家を復元した際、『中国朝鮮族の愛国詩人・尹東柱』と記された巨大な案内用の石碑をたてた」のだそうだ。そして、これを観光資源にして人を集めている。けしからんというわけだ。

     尹東柱の家は父方の曽祖父が咸鏡道鍾城郡(現在の北朝鮮咸鏡北道穏城郡)から間島に移住した朝鮮人移民である。間島と穏城郡は中朝を分ける豆満江を挟んだ対岸に位置し、清朝時代(李朝時代)から朝鮮人の移住が行われていた。

     清朝が漢族の間島への入植を認めはじめると、既に住んでいた朝鮮人と土地所有をめぐる衝突が生じ、清と朝鮮が対立した。朝鮮を保護国化していた日本が介入して1909年に間島協約を結ぶ。間島の領有権・警察権を清側に認め、その代わりに日本側は朝鮮人の土地所有権、満州と朝鮮を鉄道で結ぶ権利などを獲得した。

     その時点で間島は清朝の領土であることが確認され、8年後、尹東柱はそこで生まれた。その後清朝は1911年の辛亥革命で倒れ、中華民国となり、1949年には中華人民共和国となる。途中、満州国があったにせよ、尹東柱は中国間島出身者として生きた。

     だが、朝鮮人を保護していた日本は間島に暮らす彼らを併合した朝鮮の(在外)公民として捉えていた。日本の満州進出の足掛かりの一つにしたかったわけである。

     多様な少数民族を抱える中国がかつて清朝の領内に住んでいた尹東柱の一家をはじめとする朝鮮人たちを「中国公民」とするのは、「辺境の少数民族の歴史を中国史に組み込もう」とする「東北工程」の一環とみられる。

     だが、韓国・朝鮮人にとってみれば、尹東柱は紛れもなく朝鮮人であり、自民族の詩人であることは動かしがたい。現に今の今まで尹東柱が朝鮮人であることは疑いもしなかった。それを突然、「中国朝鮮族の愛国詩人・尹東柱」と位置付けられては“誘拐”も同然なのである。

     東北工程は中国東北部に栄えた高句麗(紀元前37年~668年)と渤海(698年~926年)を「中国の地方政権」と捉え直そうという歴史整備プロジェクトだ。韓国は「歴史泥棒だ」と強く反発している。さらに詩人まで盗られてはたまらない。

     いったん設置された碑や像がなかなか撤去されない、ということは韓国人はよく知っているはずだ。中国が龍井に建てた碑は、韓国が何と言おうとそこに立ち続けるだろう。韓国ができることは、「尹東柱は朝鮮の誇る詩人である」と言い続けることぐらいしかない。

     尹東柱の碑という点でいえば、彼が学んだ同志社大学のキャンパスに「尹東柱留魂之碑」がある。死後50年を機に1995年に建立されている。日本は決して彼を「かつて日本人だった」というような卑しい説明文は載せない。ただ、混乱を避けるためなのか、「コリアの民族詩人」としている。

     一人の詩人の上をいくつもの歴史と国が通り過ぎる。

     죽는 날까지 하늘을 우러러
     한 점 부끄럼이 없기를,
     잎새에 이는 바람에도
     나는 괴로워했다.
     별을 노래하는 마음으로
     모든 죽어 가는 것을 사랑해야지.
     그리고 나한테 주어진 길을
     걸어가야겠다.

     오늘 밤에도 별이 바람에 스치운다.

     死ぬる日まで天を仰ぎ
     一点の恥もなきを
     葉あいにそよぐ風にも
     われは心痛めた
     星をうたう心で
     なべて逝くものをいとおしまねば
     そしてわれに与えられた道を
     歩みゆかねば

     今宵も風が星を掠めゆく

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