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  • 金正恩氏が首脳外交できない理由

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    平壌市内のフィットネスセンター(2014年1月2日、駐オーストリアの北朝鮮大使館の写真展示場から撮影)

     北朝鮮の最高指導者だった故金正日労働党総書記は飛行機に乗るのを恐れ、訪中でも特別列車で北京まで行ったものだ。その息子で後継者の金正恩第1書記は父親のような飛行機恐怖症はなく、戦闘機にも搭乗している写真が朝鮮中央通信(KCNA)から発信されたほどだ。だから、金正恩氏には国内の政情が落ち着けば、活発な首脳外交が展開されるだろう、といった淡い期待もあったが、今年12月で執権丸4年目が終わるが、これといった首脳外交のニュースは平壌から流れてこない。飛行機に搭乗するのを怖くない金正恩氏がなぜ首脳外交を躊躇するのか、当方はこれまで考えてきたが、朝鮮日報日本語電子版26日の記事を読んでその理由が分かったような気がした。

     朝鮮日報は韓国政府筋の情報として、金正恩氏が過去5年間で30キロほど体重が増え、現在推定130キロではないかという。最近、朝鮮人民軍管轄の農場を視察した金正恩氏の写真が掲載されていたが、金正恩氏は確かに太った。大相撲の世界ではまだ小柄の部類だが、普通の社会では立派な肥満体の持ち主だ。
     当方は、一国の最高指導者をその外形から批判したり、揶揄う気はないが、この“増え続ける体重”こそが金正恩氏の首脳外交デビューを妨げる最大の障害だと信じているのだ。

     当方の確信を裏付けているのは、ロシアの対独戦勝70周年記念式典(5月9日)に招待されていた金正恩氏が最初は快諾していたが、土壇場になって参加を辞退し、金永南最高人民会議常任委員長を派遣したことだ。
     金正恩氏はかなり悩んだと聞く。険悪な関係が続く中国に代わってロシアは重要なパートナーだ。そのプーチン大統領から式典参加を求められたのだ。若き独裁者にとって最高の政治舞台だったはずだが、金正恩氏は参加しなかった。ロシア側の説明では、「北側の国内事情」というが、実際は、「金正恩氏の事情」だったのではないか。

     金正恩氏は叔父処刑後、“増え続ける体重”を持て余し、悩んでいた。その金正恩氏はプーチン大統領の前に立つのが怖くなったのだ。プーチン氏は側近や閣僚に体重制限を命じ、太った側近や閣僚は即解任すると宣言した政治指導者だ。もちろん、プーチン氏自身も健康管理に気を付け、日々、スポーツに汗を流している。その大統領の前に金正恩氏は立つ自信がなかったのだ。これが正恩氏のロシア訪問断念の真相だ。決して、外交プロトコール上の問題ではなかったはずだ。

     9月3日の中国の北京で開催された抗日戦争勝利70年記念式典には最初から参加する気がなかったから、“増え続ける体重”説は当てはまらないが、故金大中大統領夫人の李姫鎬女史が8月訪朝した際も、金正恩氏は夫人と会っていない。夫人はソウルに帰国後、「金正恩氏と会いたかったですが、実現できませんでした」と残念がっていたほどだ。金正恩氏は夫人と会合するシーンが撮影され、世界に流れるのを嫌ったのだ。非政治的な出会いですら、金正恩氏は非常に神経質となってきている。全てはその“増え続ける体重”が障害となっているのだ。

     それでは、なぜ金正恩氏の体重は増え続けるのか。医者ではないが、当方はストレス説が最有力だと受け取っている。叔父の張成沢(元国防委員会副委員長)の処刑から金正恩氏はまだ完全に立ち直っていない。外的には、軍視察やコンサートにも顔を見せているが、彼の心の中には大きな葛藤と恐れが渦巻いているはずだ。それから逃れたいために、彼は食べ、飲む。コントロールを失ったのだ。

     金正恩氏の周辺には妹の金与正氏(労働党中央委員会副部長)しかいない。今月25日に34歳となった実兄・正哲氏は政治には全く関心がない。正恩氏の重荷を共に背負う親族関係者が見当たらないのだ。最側近の軍幹部たちは首領の金正恩氏を心から尊敬していないことを、正恩氏自身が一番知っている。だから、人事を繰り返し、粛清を行うことで、軍幹部の謀反な言動を抑えてきた。金正恩氏は3代目の世襲独裁者だが、最も孤独な独裁者だ。“増え続ける体重”はそのことを端的に物語っているといえるだろう。

    (ウィーン在住)

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