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    元全国紙経済記者
    高橋 克明
    高橋 克明
    「ニューヨーク BIZ」CEO 兼 発行人

    メルケル独首相の「弁明」

     メルケル独首相はやはり凄い。40を超える質問を滞ることなく、ある時はクールに、ある時は簡明に答え、時にはしんみりとした思いを込めて説明していた。年1回開催される慣例のベルリン駐在記者たちの会見では、メルケル首相のクールさだけが目立った。記者たちが準備不足だったからではない。やはり答える側が1枚も2枚も上だったからだ。

     ドイツのバイエルン州で、今月18日ビュルツブルクで、そして22日にはミュンヘンで、24日にはアンスバッハで立て続けにテロ襲撃、銃乱射事件、自爆テロ事件が発生し、ドイツ国民は不安に陥っている(「ドイツで何が起きているのか?」7月26日参考)。

     事件が発生した直後、夏季休暇中だったメルケル首相の言動はまったくといっていいほど報じられなかった。首相はどこにいるのか、といった批判の声が国民からも聞こえたほどだ。

     一方、トーマス・デメジエール内相はミュンヘンンで銃乱射事件が起きたとき、夏季休暇をニューヨークで過ごすため機上の人だった。機内で事件を知った内相はニューヨークに到着すると直ぐに折り返し便でドイツに戻り、犯行現場に直行している。内相は事件を担当する閣僚だから当然かもしれないが、メルケル首相の反応とは好対照だった。独メディアの中には「メルケル首相にはテロ犠牲者へのエンパシー(共感)が欠けている」といった指摘すら聞かれたほどだ。

     それだけに、28日午後1時に招集された記者会見が注目されたわけだ。首都ベルリン担当のジャーナリスト向けの慣例の記者会見は通常、連邦議会の夏季休暇後(8月末)に開かれる。記者会見の早期開催の背景には、首相の難民政策への批判がこれ以上高まらないうちに手を打つべきだという配慮と、9月にはメクレンブルク=フォアポンメルン州議会選挙などを控え、8月末までのんびりと構えておれないといった計算が働いたのだろう。

     記者会見前は、メルケル首相が“難民ウエルカム”政策の修正を表明するか、ウエルカム政策の間違いを認めるかが注目された。なぜならば、シリアからドイツ入りした難民たちがテロを犯したからだ。

     メルケル首相は「(ビュルツブルクとアンスバッハの)2人のテロリストは自分たちを受け入れた国を侮辱する行為を犯した。それだけではない。難民支援者や合法的な難民に対しても侮辱している」と、「侮辱する」(verhoehnen )という言葉を何度も使ってテロリストを批判した。

     難民を受け入れてきた結果、イスラム過激派テロリストが国内でテロを起こした責任を追及されると、「政権を担当する首相として如何なる決定にも当然責任がある」と述べている。

     メルケル首相は会見では対テロ対策として新たに9点計画(Neun-Punkte-Plan)を明らかにした。内容自体は新しくはなく、既に実施中か実施が決定しているものがほとんどだ。イスラム教系難民の過激化への早期警告システムの確立、情報機関の連携強化、難民申請が却下された者の迅速な送還、そして連邦軍と警察の連携強化などが含まれている。

     メルケル首相は、「私は昨年9月、われわれはできる」(Wir schaffen das)と強調し、殺到する難民問題の解決を国民に呼びかけたが、決して安易なことではないことは知っていた。しかし、われわれの価値観を放棄することなく、この難問を克服できるはずだ。ドイツは過去、さまざまな困難に直面したが、克服してきたではないか。私は国民の不安を理解しているが、パニックになる必要はない。私は今も“われわれはできる”という確信に変わりはない。ドイツは対テロで歴史的な挑戦に直面している」と強調している。

     昨年11月13日にはパリ同時テロ事件が発生し、テロ実行犯の中には偽造難民で欧州入りした者がいたことが判明。そして大晦日に難民・移民の集団婦女暴行事件がドイツ各地でも起き、難民への国民の目が厳しくなっている。それを受け、ドイツでも受けれる難民の数が制限され、国境管理の強化、難民申請者の身元確認の強化などが実施されてきている。ただし、メルケル首相は難民受け入れの最上限設定にはこれまで一貫として拒否し続けている。

    (ウィーン在住)

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