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    中村 仁
    元全国紙経済記者
    高橋 克明
    高橋 克明
    「ニューヨーク BIZ」CEO 兼 発行人

    欧州の入口、西バルカンが危ない

     バルカンには欧州最古のイスラム教共同体が存在する。その中でもボスニア・ヘルツェゴビナでは、イスラム教創始者ムハンマドの生き方を模範とし初期イスラム教(サラフ)への回帰を訴えるイスラム原理組織サラフィー主義者がイスラム戦士をリクルードし、シリアやイラクで戦うイスラム過激派組織「イスラム国」(IS)に送っている。オーストリア国際政治研究者のバルカン専門家 Vedran Dzihic氏がオーストリア放送とのインタビューの中で答えている。以下、同氏の情報に基づく。

     バルカン最大のISリクルート先はボスニア、それにセルビア共和国南部サンジャク地域、アルバニア、マケドニアだ。昨年初めまでにボスニアから330人、コソボ出身が150人、アルバニアから90人、セルビア出身70人、そしてマケドニアから12人がサラフィー主義者にリクルートされ、シリア入りしたことが明らかになっている。

     バルカンでのリクルートのやり方は欧州諸国と同様、インターネットが利用されている。ブリュッセル、パリ、ウィーンと同様、若者たちがネット世界で過激派と遭遇し、リクルートされている。それに対し、バルカン諸国の指導者たちは、若い青年たちがネットでイスラム過激派と接触する危険性を過少評価してきた。IS関係者はバルカンの若者たちにソーシャル・ネットワークを通じ、よりよい生活を約束し、勧誘している。バルカンのイスラム教専門家たちは、「イスラム過激派のビデオがソーシャルネットワークで拡大されている」と久しく警告を発してきた。

     それでは、なぜボスニアの青年たちがイスラム過激派のリクルートに応じるのか。Dzihic氏は、「若者の失業率の高さを見れば分かる。バルカンでは平均50%だ。2人に1人が失業状況だ。ボスニアでは63%だ。世界最高の失業率だ。彼らは両親のもとで生活している。生活の急速な改善の見通しはない。雇用市場は縁故主義が席巻し、政府関係者が独占している。一方、青年たちは理想主義、行動欲から、イスラム過激派のリクルートに応じてしまうのだ」という。

     コソボでも同様だ。コソボは欧州でも最も若い国家だ。ほぼ90%の国民が30歳以下だ。ISはコソボの若者たちに「もし一緒に戦うのならば家庭持ちにはハウスを与える」と約束する。コソボは2008年、念願の独立国家となったが、国民経済は停滞し、国民の間で失望が大きい。

     IS闘士にボスニア出身者が多いのは、ボスニアではイスラム教徒が最大宗派であるという事実だけではない。旧ユーゴスラビア戦争で多数のムジャーヒディ―ン戦士(ジハードを遂行する者)が国内に入ってきた。彼らは1979年のアフガニスタンで対ソ連戦争を経験してきたプロの戦闘士だ。ユーゴ戦争ではイスラム教派を支援して戦った。戦争後、サウジアラビアの財政支援を受けてボスニアでイスラム寺院、イスラム文化センターが建設され、そこでサウジの主要宗派ワッハープ派がボスニアのイスラム教徒に影響を与えている。

     ボスニア政府は2015年7月、テロ戦略を構築して、テロ対策に乗り出し、同年10月には欧州評議会のテロ対策関連の付属議定書に署名している。同国はテロ対策で欧州連合(EU)との連携を強化する一方、バルカン地域協力を深め、地域間の協力、情報交換の促進にも積極的に乗り出している。

     なお、パリで開催された第3回西バルカン諸国首脳会議で4日、メルケル独首相は、「英国のEU離脱は西バルカン諸国の加盟問題に悪影響はない」と述べ、欧州統合を目指す西バルカン諸国を安心させている。オーストリアのケルン首相は、「西バルカンの安定発展は欧州にとっても重要だ」と述べる一方、西バルカン諸国がイスラム過激派の影響を受けていることに懸念を表明している。なお、欧州委員会はボスニアをイスラム過激テログループへの支援国ブラックリストに載せている。

    (ウィーン在住)

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