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    中村 仁
    元全国紙経済記者
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    高橋 克明
    「ニューヨーク BIZ」CEO 兼 発行人

    フランシスコ法王に時間はあるか

     ローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ法王フランシスコが第266代法王に選出されて今月13日で3年目を迎える。前法王べネディクト16世の生前退位を受けて急きょ開かれたコンクラーベ(法王選出会)で南米出身ブエノスアイレス大司教のホルへ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿(当時76)が数回の投票後、ローマ法王に選出された。

    800

    黒い煙を出すシスティーナ礼拝堂の煙突(2013年3月12日、オーストリア国営放送の中継から)

     法王は1936年、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで北部イタリア人移民の息子として生まれた。2人の兄弟と2人の姉妹の家庭で育った。ホルへは化学者を目指していた。若い時はタンゴを踊るのが好きな平均的なアルゼンチン人青年だった。好きな女の子もいた。

     22歳の時、肺炎に罹り、肺の一部を切り落とした。この経験が彼を精神的な世界に目を向けさせることになった。聖職者となるためイエズス会修道院に入る。チリ、アルゼンチン、独フランクフルトの聖ゲオルゲンなどで神学を学ぶ。ドイツ留学中、豊かな欧州と南米の貧しさを肌で感じ、「貧者の救済」という彼のライフ・テーマが構築されていった。

     フランシスコ法王は法王専用の宮殿に宿泊せず、ゲストハウス「サンタ・マルタ」Santa Martaに寝泊まりし、毎朝、そこでバチカン職員と共に朝拝を行っている。プロトコールを重視し、それを真面目にこなしていったドイツ人の前法王べネディクト16世とは違い、人とのふれあいを重視する南米教会出身の法王は欧州人の目にも新鮮に映り、それが法王の人気をこれまで支えてきた。

     当方はこのコラム欄で、「フランシスコ法王には清貧を説く法王というイメージが先行しているが、法王の評価は、信頼性を失った教会を建て直し、法王庁内の官僚的体質を改善できるか、その危機管理能力によって下すべきだ」と書いてきた。

     聖職者の未成年者への性的虐待事件、法王の執務室から内部情報や書簡が外部に流れた通称バチリークス事件、そしてバチカン銀行の不正容疑など、数えればきりが無いほどの多くの不祥事が発生し、カトリック教会の信頼度は地に落ちている。

     ベルゴリオ枢機卿はコンクラーベ開催直前に開催された枢機卿会議で「教会は病気だ」と激しく教会の現状を批判した。その大司教がローマ法王に選出され、世界に12億人の信者を抱えるキリスト教最大教会の治療のため医者として登場したのだ。あれから3年が過ぎる。フランシスコ法王は今年12月で80歳を迎える。法王に残された時間は限られてきている。

     そこで、速足でフランシスコ法王の過去3年間の歩みを振り返ってみる。

     2013年4月、バチカン機構の改革の第一歩として8人の枢機卿から構成された提言グループを創設し、法王庁の改革(具体的には使徒憲章=Paster Bonusの改正)に取り組むことを明らかにした。ローマ法王主導の中央集権体制を複数の指導者による集団指導体制への移行を狙ったものだ。換言すれば、世界の司教会議を中心とした非中央集権体制移行への緩やかな改革だ。教区内の不人気な聖職者をバチカンが司教に任命する、といった過ちを回避できるうえ、意思決定プロセスを短縮できるメリットがある。ローマ・カトリック教会の“正教会化”ともいえるだろう。

     バチカン銀行(正式には宗教事業協会、IOR)は過去、不法資金の洗浄(マネーロンダリング)容疑やマフィアとの関係などの疑いがもたれてきた。法王はバチカン銀行の刷新、財政問題の専門家を任命し、14年2月には「聖座とバチカン市国の財務・運営について調整する機関」を設置し、その長官にジョージ・ペル枢機卿を任命している。

     フランシスコ法王の任期3年間のハイライトはやはり世界代表司教会議(シノドス)の開催だ。バチカンは昨年10月4日から25日まで、シノドスを開催し、「福音宣教からみた家庭司牧の挑戦」について継続協議を行った。シノドスの主要議題の一つは離婚・再婚者への聖体拝領問題だった。

     参加者の話を総括すると、シノドスでは「個々のケースを検討して決める」という見解が多数を占めた。すなわち、神の名による婚姻は離婚が許されないが、何らかの事情から離婚した信者に対して聖体拝領の道を閉ざさず、現場の司教たちが判断を下すという見解だ。離婚を認めないカトリック教義を維持する一方、聖体拝領を離婚・再婚者にも与える道を開くという典型的な妥協案だ。

     世界のメディアが注目する聖職者の独身制見直しでは大きな変化はない。教会の財政基盤を危機に陥れる独身制の見直しはフランシスコ法王でもできない。同性愛問題では、同性愛者の人権を尊重するという点で前進してきたが、「婚姻は男性と女性の間」という教義を放棄する考えは法王にはない。ちなみに、フランシスコ法王は昨年10月4日、シノドス開催記念ミサで、「神は男と女を創造し、彼らが家庭を築き、永久に愛して生きていくように願われた」と強調している「ローマ法王『独身制は永遠です』」2016年2月9日参考)。

     フランシスコ法王は13年6月、「バチカン法王庁には同性愛者のロビー活動が存在する」と南米・カリブ海修道院関係者との会合の中で漏らしたが、同性愛問題は一部の社会問題ではなく、法王の足元のバチカン内部でも広がっている問題だ。バチカン法王庁教理省の職員(43)が昨年10月、記者会見で「自分が同性愛者だ」と告白し、バチカンに大きな衝撃を投じたばかりだ。 

     なお、超教派運動、キリスト教の再統一問題では、キューバの首都ハバナで先月12日、フランシスコ法王とロシア正教会最高指導者キリル1世の歴史的会合が行われた。東西両教会最高指導者の会合は1054年、教会のシスマ(分裂)以来初めてだ。

     西方教会と呼ばれるカトリック教会と東方教会と呼ばれる正教会は11世紀頃、分裂して今日に到っている。両教会間には神学的にも相違がある。例えば、正教は聖画(イコン)を崇拝し、マリアの無原罪懐胎説を認めない一方、聖職者の妻帯を認めている。しかし、両派の和解への最大障害は、正教側がローマ法王の首位権や不可謬説を認めていないことだ。東西両教会の再統一実現までには越えなければならない高いハードルが控えているわけだ。

     11世紀の預言者、聖マラキは「全ての法王に関する大司教聖マラキの預言」の中で1143年に即位したローマ法王ケレスティヌス2世以降の112人(扱いによっては111人)のローマ法王を預言している。そして最後の111番目が生前退位したベネディクト16世だ。興味深い点は111番目に当たるベネディクト16世の就任預言後の散文だ。その内容は、第266代の法王として選出されたフランシスコと教会の未来について示唆していると一部では受け取られている。

     「極限の迫害の中で着座するだろう。ローマ人ペテロ、彼は様々な苦難の中で羊たちを司牧するだろう。そして、7つの丘の町は崩壊し、恐るべき審判が人々に下る、終わり」(訳文・ウィキぺディアから)。

    (ウィーン在住)

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