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    世界をゆさぶる テロ、難民・移民危機

    世日クラブ

    元嘉悦大学教授 山田 寛氏

    「一国平和」通用せず

     元読売新聞アメリカ総局長で元嘉悦大学教授の山田寛氏はこのほど、世界日報の読者でつくる「世日クラブ」(会長=近藤讓良・近藤プランニングス代表取締役)で「世界をゆさぶるテロ、難民・移民危機」と題し講演を行った。その中で、山田氏は、テロや難民・移民問題について、日本も含めた世界全体の問題であると強調。政府に情報機関の強化やシリア難民の受け入れ表明を求めた。以下はその要旨。

    シリア難民受け入れを/情報機関の強化も重要
    少女を使った卑劣なテロ/教育敵視のイスラム過激派

     最近、国際ニュースでテロや難民に関するニュースが伝わらない日はほとんどない。つい他人事のようにヨーロッパは大変だななどと思いがちだが、これはヨーロッパや中東だけでなく、日本も含めた世界全体の問題であると認識する必要がある。

    山田 寛氏

     やまだ・ひろし 1941年、東京生まれ。東京大学文学部仏文学科卒業。読売新聞でサイゴン、バンコク、パリ特派員、アメリカ総局長、調査研究本部主任研究員などをつとめた後、嘉悦大学教授(国際交流センター長)を経て、現在難民審査参与員、社会福祉法人「さぽうと21」理事。

     1970~80年代のテロは、欧米や日本などの極左集団によるものが多かった。この中で、私がテロとの戦いの厳しさを実感したのは、78年に起きたイタリアの極左集団「赤い旅団」によるアルド・モーロ元首相誘拐事件だった。モーロ元首相は、ヨーロッパの代表的な政治家で、間違いなく当時のイタリアの超VIPだった。

     ところが、赤い旅団に拉致され、55日間監禁されたうえで殺されてしまった。なぜかというと、当時のイタリア政府が誘拐犯との交渉を断固拒否したからだ。

     同じころ、日本赤軍が日航機をハイジャックする事件があったが、当時の首相は「人命は地球よりも重い」と言って、彼らの仲間を超法規的に釈放した。これに比べて、テロに対するイタリア政府の対応の厳しさを感じた。

     そういう時代だったが、極左集団によるテロは、どちらかというと国内で実行され、しかも一般民衆よりもVIPを標的としたものだった。

     しかし、その後、極左集団は、後継者を育てることができず、東西冷戦と共に、彼らによるテロもなくなっていった。しかし、それ以降は、イスラムの過激派によるテロの時代になった。

     最近のテロによる死者は、非常に増加している。経済平和研究所というシンクタンクがまとめた統計によると、14年の死者は3万2685人で、2000年の9倍、13年の1・8倍だ。

     なぜこれだけ死者が出ているのかというと、イスラム過激派の目標の一つが、一般の民衆をたくさん殺すことで、社会を恐怖に陥れることにあるからだ。

     テロの実行犯がどういう人間かというと、もともとイスラム教のことをよく理解している熱心な信者は少なく、今までイスラム教なんてほとんど関心がなかった、というような人が多い。過激派からすると、頭の中に余計な知識が入っていない方が自分たちの思うように染めることができる。こうした考え方は、中国の毛沢東、カンボジアのポル・ポトと同じだ。

     昨年11月にパリでテロを起こした容疑者の一人は、ベルギーのブリュッセルでバーを経営して、自分でも酒をのんでいたと報道されている。だから、本当にイスラム教を敬虔(けいけん)に信じているのかということだ。

     最近のイスラム過激派テロの特徴としては、教育を敵視する、自爆テロが多い、女性や子供をテロに使用することなどが挙げられるが、これを一番体現し、実行しているが、ナイジェリアの「ボコ・ハラム」だ。ボコ・ハラムと言う名前自体「西洋の教育は罪悪」という意味だ。

     彼らが世界的に名を轟(とどろ)かすようになったのは、14年からだ。ボコ・ハラムは、同年4月、ナイジェリア北東部にある16歳から18歳までの女子学生の寄宿舎を襲って、270人以上を拉致した。そのうち、50人ぐらいは逃げ出したが、約220人が捕らわれた。彼らは、その女子学生たちを自分たちの兵士の性奴隷的な妻として与え、洗脳を進めた。最近の報道によると、自爆テロに使われだしたという話もある。

     特に卑劣で非人道的なのは、少女による自爆テロだ。何しろ少女は警戒されにくいため、目標に近づきやすい。また、彼らにとってみれば大人よりも少女の命のほうがコストが安い。だから少女を使うのだ。自爆まで達せない少女を遠隔操作で爆破させることも行われているとみられている。

     「イスラム国」(IS)の場合は自爆テロに子供を使うというよりは、むしろ戦闘に使う。英国のNGOの報告によると、先日、シリア政府軍に奪回されたパルミラ遺跡の円形劇場で、ISが少年たちに捕虜たち25人を銃殺処刑させていたことが伝えられている。

     ISはネットやフェイスブック、ツイッターを最大限に利用している。ビデオやネットで「ここでは誰もが役割を果たせるんだ」という呼びかけを流している。ヨーロッパで社会に入り込めず、仕事もないという状況にある移民出身の若者にとっては、これが殺し文句として効くのだろう。

     ISがなぜ強いかというと多様な収入源があるからだ。つまり、ISは「多角経営のコングロマリット」だ。空爆の効果で占領地を失う中で、こうした収入も減っているはずだが、これがテロの減少に直接的には結びつかないだろう。むしろ増える可能性もある。

     イスラム過激派に対しては、教育が一番重要な戦いのグラウンドではないか。つまり、貧困家庭の子女が学校をやめないようにする、イスラム教をきちんと教わる、女子教育を推進することが大切だ。これによって、少年少女の段階から過激派のプロパガンダに抵抗力を持つ人間を増やすことになる。

     国際協力の重要性は皆が分かることだが、実際に実行するのは難しい。例えば、欧米や日本、中国、ロシアなど、イデオロギーも政治的価値観も大きく違う国が反テロということだけでどこまで協力できるか。反テロの対象にしても、考え方の違いが出てくる。

     今、EUの加盟国の間でも、相手国の機関を信頼できずに極秘情報を渡すのをためらっていると言われている。EUの国同士でもそうなのに、対外情報機関も持っていない日本が、信頼されるわけがない。

     日本では、やはりテロへの警戒感は薄い。日本では、街の監視カメラを増やした時も反対の声が強かった。秘密保護法の制定や憲法に緊急事態条項を入れるといった話が出ると、その都度、非常に強い抵抗がある。

     情報機関の強化も必要だ。私は、難民の審査に関わっているが、日本の自前の情報というのは非常に少ないと感じる。日本の在外公館の数は少ないが、そこも充実させないといけない。

     移民・難民についてだが、イタリアやギリシャのように若者の失業率が40、50%と言われていた国でも、移民・難民を受け入れていた。しかし、今では難民受け入れに対する違和感がヨーロッパに広がっている。今や、難民・移民の候補者に対して催涙ガス弾が使用されるようなことも起きている。

     こうした中で、いま日本の難民の受け入れがいかに少ないかということが、最近改めて問題になってきている。日本も、レバノンやシリア人の難民キャンプに行き、第三国定住というやり方で引き受けるということを考えるべきではないか。少しでも国際社会や難民への連帯を表明することが大切だ。

     何十人でもいいが、これまで日本に繋(つな)がりがあった人、日本語を大学で勉強していた人、放っておくとISの性奴隷にされるような異教徒などで、本人に希望があれば受け入れるべきではないか。“爆買い”の観光客だけでなく、難民の「おもてなし」もしてほしい。テロでも、難民・移民問題でも「一国平和」は通用しない。

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