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    本紙創刊40周年新春特別座談会(下)へ

    日本・モンゴル文化と大相撲忍耐力

    300ハングリー精神で来日の強さ 内山
    双葉山の故郷まで行った白鵬 フレルバータル
    名横綱はあまりけがをしない 木下

    スターリン殴った白鵬の伯父 フレルバータル
    破格の待遇で人が入ってくる 内山
    我慢し継続した人が強くなる 木下

     木下 よく白鵬は、大事なことは我慢する事だ、耐える事だと言いますが、大鵬や双葉山も同じことを言っていたと思います。例えば相撲の基本は、四股を踏むこととテッポウだと言いますが、大鵬いわく四股を踏むのは毎日500回、テッポウは毎日2000回、これをやった人とやらない人では物凄(ものすご)い差が出てくるんだと。大鵬も師匠が時々、見ていて「大鵬、いま、何回やったんだ」と聞かれ、「(テッポウ)2000回やりました」と答えるが、実は1500回しかやっていなかった。それを師匠に、ちゃんと見抜かれて「もう少しやろうか」とノルマを達成させられた。

     とにかく、これを我慢して継続した人が強くなってくる。また、基本をやっておけば怪我(けが)はほとんどしないんだと。大鵬は時々怪我をしたが、名横綱と呼ばれる双葉山や常陸山などは、あまり怪我をしていない。それは基本をちゃんとやっているから、投げられても、投げられ方が上手(うま)いとか、怪我をしない転び方があるそうなんです。

    400-1

    内山 斉氏

     フレルバータル 白鵬の素晴らしい点は、私が見る限り、相撲でより長く、強く、大記録まで頑張ってきた関取の勉強や研究をよくやっていました。一緒に双葉山の故郷の大分まで行ったことがあるんです。どういう状況の中で育ったか、どういう精神で、どう精神力を作っていったか、稽古をどういうふうにやったか、いろいろな技を詳しく勉強していくので地元の人たちが感動していた。ただ稽古だけじゃなくて、研究、勉強することもよくやっている点がプラスになっているんじゃないかと思います。

     木下 先ほど大使もおっしゃっていましたが、本当にモンゴルの男は体を鍛える事もそうですし、教養を高める事とか、いろんなことをしている。白鵬のお父さんはオリンピックで銀メダルを獲(と)っているし、またお母さんはお医者さんで、非常にインテリの家庭です。最近知ったことなんですけど、白鵬の伯父さんが元総理大臣だそうですね?

     フレルバータル 総理大臣もいるし、日本の大使をやった方も居るんです。

     内山 そうですか。そういう日本との関わりの深い方もいたと。

     木下 それで、びっくりしたのが、白鵬の伯父さんがあのソ連のスターリンを殴ったことがあると言うんです。

     フレルバータル モンゴルでは有名な話です。

     内山 ほう、あのスターリンを殴ったと。そんな人は滅多にいるものではない。

     木下 そういう物凄い強さっていうか、口だけじゃなくて本当に心身ともに強い。あのスターリンを殴ったという、そのDNA(デオキシリボ核酸)を持っているんですか。

     フレルバータル DNAの話なんですけど、日本でもあるかどうか分かりませんが、モンゴルではお爺(じい)さんとお父さんが強ければ子供にも強い男が生まれる、DNAでそういう家系があるんだとよく言われます。で、最近モンゴル相撲で頑張っている関取たちを見ても半分以上は、親族の誰かが強い力士だったという人間関係を持っているんです。だから、そうした繋(つな)がりがあると思うんです。

     白鵬のお父さんは、モンゴル相撲の大横綱です。レスリングでも世界クラスの選手で、東京五輪の次のメキシコ五輪で銀メダルを獲得しました。それで、例の伯父さんの話ですが、1930年代半ば頃の話です。旧ソ連では、スターリン、ソビエトの独裁という大変な時期で、皆スターリンを怖がって、彼の命令に従わないと命がないという大変な時期でした。モンゴルは旧ソ連に依存性を持つ国で、何でも彼の言う通りにしていたんです。

     ところが、白鵬の伯父さんにゲンドゥンという首相がいたのですが、そのゲンドゥン首相がモスクワに呼ばれて、あまりにモンゴルの国益に合わない事を要求されて喧嘩(けんか)になって殴り、スターリンの煙管(きせる)を壊してしまったという話があるんです。

     当時は、そんなに広くは話されず、書かれなかったと思いますが、スターリンの言う事に従わない人物が一人もいない頃、私は受けることはできないと断ったことは大変な勇気です。自分の国のため、自分の国民のため、こういうことをやったのは大変な事ですよ。しかし、その後、捕まって、全然別の理由で処刑されてしまった。

     それに付け加えると、70年代から80年代初め頃に日本の大使をやっていた方が、もう一人の叔父さんで、私はその大使の弟子なんです。素晴らしい大使で、非常によく教育された大変なインテリで、日本のことが大好きで、日本とモンゴルの関係作り、基盤づくりに大いに貢献した大使だったのです。白鵬は、その大使の親戚ですから、誇りを持っているはずです。

    400

    ソドブジャムツ・フレルバータル氏

     木下 なるほど、DNAというのは凄いですね。

     フレルバータル ところで強い関取、例えば横綱の子供が横綱になったっていう例は、貴乃花、若乃花以外にもありますか?

     内山 大関なら栃東(とちあずま)がそうでしたね。相撲巧者で大関まで昇進し、横綱を期待されていましたが、相撲を続けるにはリスクが高い持病があって引退しました。父親も関脇でね。鶴ヶ峰と逆鉾、寺尾の父子関脇、兄弟関脇はよく知られています。

     木下 それで、恐らく委員長はご発言が難しいかと思いますが、今の師匠は自分と同じような苦しいことは男の子供にはさせたくないと。それよりは娘に弟子の中で将来強そうな者と一緒にさせた方がよいという考えがあるんですよね。

     内山 うーん……。

     木下 ですから、日本はDNAから弱くなっちゃていると思うのです、師匠自身、例えば自分が関脇で終わったら、自分の子供は横綱にするんだ、とはならない。モンゴルの男とは気風が違い過ぎますよ。

     フレルバータル それはDNAというより、精神の問題じゃないですか。

     木下 そうですねDNAの問題にしたらいけないかも。日本人が弱いっていうのは、何でも促成栽培みたいになっちゃって、大学相撲で実績のある弟子が来ると特別待遇で早く出世します。それで、前頭に行くのは早い、三役にも結構なる。しかし、学生横綱から横綱になったのは輪島たった一人ですから。ある師匠が語っていたのは、男は16歳から18歳ぐらいまでの時に一番心身ともに成長するから、その時にプロの相撲取りの世界に入らないと強くならない。学生でちょっと勝っても仕方ない。だから遠藤、かなり課題があるのではないかと思うのですが。16歳ぐらいの時に徹底的にプロの厳しさってものを味わってない人が多いんです。だから日本人の横綱が出るっていうのは、かなり大変ですね。

     内山 当分、日本人の横綱は出ないのではないかと思いますね。何故(なぜ)かと言うと、それだけのパワーがないってことです。遠藤も大関、横綱を目指して驀進(ばくしん)してもらいたい。モンゴル出身の力士が26人。618人いるお相撲さんの中で、その26人のモンゴル勢が圧倒的に強いんですね。それだけ、大使もおっしゃってたけれども、夢を抱いて、やるぞっていうハングリー精神で日本にやって来ている。

     その典型的なのが鶴竜ですよ。それだけのパワーがあるってことです。だから先ほども言いましたが、私は鶴竜に、横綱まで10年間駆け足で来た、その先は長く綱を張ることを考えて貰(もら)いたいと挨拶したんです。

     フレルバータル 遠藤は強くなると思います。この前、モンゴル相撲の、日本で言う親方から話を聞きました。彼は日本の関取をよく見ていますが、「遠藤は体つきなどを見るとよく伸びますよ。期待が持てますね」と話していました。私は、遠藤が皆の期待に応えて横綱になってくれると期待しています。

    遠藤は体つきから期待できる フレルバータル
    双葉山のような体づくり必要 内山
    師匠としても立派な常陸山 木下

    親方は弟子の教育もっと力を 内山
    遊牧民社会の伝統的絆の強さ フレルバータル
    名横綱に共通する「太り切る」 木下

     内山 そうですね。しかし、まだまだ力量を発揮していないと思います。むしろパワーのある逸ノ城のほうが、先に行くのではないでしょうか。しかし、まだ白鵬にはかないません。九州場所でも、逸ノ城を吹っ飛ばしてしまうぐらいですから、やはり白鵬は大横綱です。

    800

    相撲の神様双葉山(左)と角聖常陸山像(水戸市・堀原運動公園の武道館前で、2014年12月27日撮影

     木下 しかし、日本人力士がもっと強くなって、横綱が出て来るようにならないといけません。モンゴルの人たちから見限られてしまってはダメです。

     フレルバータル 私は、日本人が弱いとは思いません。強い青年たちはたくさんいます。そういう青年たちが、相撲に向かう条件をもっと作っていくことが課題だと思います。

     木下 それは待遇の面も含めてですね。先ほども申し上げましたが、やはり苦労の割に賞金額(本場所優勝賞金1千万円)が少な過ぎると感じます。委員長、そこは何とかできませんか。

     内山 プロゴルファーのように賞金1億円とまではいかなくても、優勝したらせめて5千万円ぐらいとか、それぐらいの破格の待遇にすれば、日本人もモンゴルの人たちも我も我もと相撲界に入ってきますよね。

     フレルバータル その通りです。

     木下 ところで、師匠の指導方法はいろいろあると思いますが、稀勢の里と同じ茨城出身で角聖と呼ばれた常陸山も見事でした。彼は、横綱をやりながら弟子を作っていました。いまでいうプレイングマネージャーのような立場です。ものすごい勉強熱心で、博識な方でした。もともとは大学に行きたいからと東京に出てきましたが、相撲を見て、こっちのほうが面白そうだ、ということで入門しました。彼が稽古する時の方針があるのですが、土俵に出ている力士全員に一人ひとり細かいアドバイスを与える。その周りにいる力士には、すぐに「四股を踏め」と指示をします。とにかく、ボーっと遊ばせないわけです。自分自身が全員に稽古をつけるのですが、まず他の部屋から来た力士に、本当にいい稽古をつけてあげる。その後で、自分の直の弟子には、物凄い厳しい稽古をつけたという。このように非常に立派な師匠でして、彼が指導した出羽ノ海部屋からは26代大錦や27代栃木山、31代の常ノ花と3人もの横綱が誕生しました。その点、今の師匠も、もう少ししっかりしてほしいなと思います。指導方針にもいろいろと課題があるのではと思います。

     内山 これも先ほど言いましたが、菓子類なんかを買って食べたりしていると、太ってはきても、ぷよぷよとしてしまってダメなんです。力士は朝起きて、稽古して、ちゃんこ食べて、昼寝して、また稽古つけてというように、その繰り返しで相撲取りらしい体にする必要があります。その辺を、今の親方衆は、厳しく弟子に教育しないといけない。そうじゃないと、あんこ型の、かつての双葉山のような肉体美ができないんですね。その点、逸ノ城は、いまの大関たちを差し置いて、先に横綱になってしまうかもしれません。それだけのパワーがありますね。

     フレルバータル しかし、日本の相撲は大きな体やパワーだけによるものではありませんね。エストニア出身の把瑠都は非常にいい体を持っていましたが、横綱になれませんでした。いま、体の大きいブルガリアやブラジル出身の力士も、小結や関脇ぐらいまでは来ています。逸ノ城は体は確かに大きいのですが、白鵬のように精神力を身に付け、日本の伝統文化や相撲のことをしっかり勉強しないといけません。力や体の大きさだけでは、成績は上がらないと思います。

     木下 白鵬は、見事に立派な横綱になりました。委員長もおっしゃっていた体作りについて言えば、白鵬も日本に来たころは体重が62㌔で、体が小さ過ぎてどの部屋からも引き取ってもらえず、もうすぐモンゴルに帰ろうかという直前に、宮城野親方に最後に拾ってもらったようですね。

     フレルバータル そうでした。

    400-2

    木下義昭

     木下 体の作り方について、昔の名横綱が共通して言っていた言葉は、「太り切る」という表現です。それは、ただ単に太るということではなく、ちゃんこ食べて、稽古つけて寝る。鉄アレイなど使う筋トレは必要ない。基本をコツコツと繰り返すことで、いい意味でどんどん肥えさせる。それを「太り切る、肥え切る」というらしい。そうして体ができれば、怪我をしない。柔軟な筋肉や忍耐力が付く。白鵬の強さは精神性にあると大使もおっしゃいましたが、彼はそういう基本的なことをしっかりやっている。ただただ食べて太くなっているわけではなく、歴代の名横綱が経験したように、鍛えて、鍛えて、鍛えて、立派な体作りをする。それによって、精神力も強くなるそうですね。

     内山 白鵬は、日本の伝統文化を本当によく研究しています。それは見事なものです。優勝した時の挨拶にしても、日本人のわれわれだって思い付かないようなきちんとしたものです。

     木下 誰かアドバイスしてくれるゴーストライターやコピーライターがいるんじゃないかと思うほど立派でした。

     フレルバータル いやいや、周りにいる人たちが非常にいいと思います。いろいろと指導してくれる素晴らしい方たちに恵まれているのではないでしょうか。

     木下 日本の力士は家から小遣いを送ってもらっているということですが、モンゴルの人たちの強さの背景には、それとは違った意味で、家族力の強さというものがあるようです。それは金銭的なものではなく、激励による支えです。それについて大使、いかがですか。

     フレルバータル 今でもモンゴル社会は、家族、親戚同士の絆が非常に強いですね。それは、遊牧民社会の伝統的な掟(おきて)だと思います。モンゴルの社会が変わっていく中で、それが弱くなっている面もありますが、まだまだ重要な役割を果たしています。

     一例を挙げると、90年代初め頃、モンゴルの経済がストップしてしまい、国民の生活が本当に苦しくなったことがありました。本当に大変な時期でしたが、親戚同士で互いに助け合う精神が大きな役割を果たしました。その頃、町の中は失業者であふれ、スーパーの棚は空っぽになり、インフレ率は400%まで上がりました。

     その時助けになったのは、家畜を持っている牧民たちです。彼らが、食肉、乳製品を親戚同士で配って、分かち合うことで、難しい時期を乗り切りました。モンゴルの歴史の中で、食べ物がないことで人が亡くなった例は一人もありません。

     内山 つまり、餓死した人はいないと。

     フレルバータル はい。全然知らない人がお腹(なか)がペコペコになって家に訪ねて来ても、食べさせてあげます。しかし、その逆にこういう苦労を知らないモンゴル人の中には、働かなくても生活できるという甘い精神もあるので、経済発展にはマイナスになる面もあります。

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