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    新春座談会(下)へ

    「地方創生」で新たな国づくり

    400 日本経済の本格的な再生に向けて、今年がいよいよ正念場となる。安倍晋三首相が推進する経済政策「アベノミクス」の波を地方にも及ぼす鍵となるのが「地方創生」だ。その政策の実現は新たな国づくりにも直結する。そこで、「地方と日本を元気にする国家戦略」をテーマに、石破茂地方創生担当大臣(衆議院議員)と政治評論家の長野祏也氏、世界日報主筆(社長)の木下義昭が、内閣府の地方創生担当大臣室で論じ合った。

     石破大臣は昨年末に閣議決定した地方創生に関する総合戦略について「一言でいえば、『しごと』と『ひと』の好循環をつくるのが目標だ」と述べるとともに、「地方が自ら考え、効果検証をして自ら行い、国はその取り組みを支援するというような、新しい国と地方の関係を築きたい。それが一番のポイントだ」とし、地方版の総合戦略策定の重要性を強調した。また少子化対策として「出生率1・8」という「国民希望出生率」を掲げ、そのための環境整備を図る意向を表明した。

    800

    新春座談会に出席した石破茂地方創生担当大臣(中央右)、政治評論家の長野●(「示」の右に「右」)也氏(中央左)、世界日報の木下義昭主筆(右)、早川一郎編集局次長(左)=内閣府の地方創生担当大臣室

     長野氏は衆議院総選挙で安倍政権が「大勝利」したものの消極的な支持だったことから今後の政策の中で「消費税率引き上げ問題にとどまらず、社会保障の将来構想とか財政再建に向けた取り組みを国民にしっかり見せる必要がある」と指摘。

     また「地方への新しいひとの流れをつくる」という点で「経済効率性の壁を乗り越える知恵と工夫を全国の自治体が生み出すことができるのか」が問題であるとし、そのためには「発想の世代交代」が鍵になると語った。

     木下主筆は「(政権が)少しでも傲慢(ごうまん)な姿勢を取れば国民の支持はすぐに失われる」とし、丁寧な国会運営を心掛けることが肝要であると述べた上で、「地方創生は国家の再興に直結するほどの大きな課題」であり「新たな国づくりにも直結している」と強調した。

    新しい国と地方の関係築け

    消費税率上げの環境整える 石破
    選挙大勝利は消極的支持 長野
    地方創生で「信任」の回答を 木下

    社会保障の構想国民に示せ 長野 
    地方が発想する総合戦略を 石破 
    必要なアイデアを現場から 木下

    400-1

    石破茂(いしば・しげる)昭和32年生まれ。慶應義塾大卒。61年、衆議院議員初当選。平成14年、防衛庁長官、19年、防衛大臣、20年、農林水産大臣、21年、自民党政調会長、24年、同幹事長、26年、国務大臣(地方創生・国家戦略特別区域担当)などを務める。鳥取県出身、当選10回。

     ――昨年12月の衆議院総選挙で自民党が圧勝し、公明党と合わせ与党で3分の2を超える議席を得ました。これについてまず一言、大臣はどのように受け止めていますか。

     石破 大変ありがたい信任を国民から頂いたということだと思っています。

     民主党から自民党・公明党に政権が移った2年前の選挙に比べれば、高揚感に乏しい選挙でした。それは、すれ違う車の中の方々や、街角の方々がどれだけ手を振ってくれるかで分かります。私も今度で当選10回目を迎えさせていただきましたが、2年前は誇張抜きで半分の人が手を振ってくれて、あんなに反応がよかったことはありませんでした。今回は10台に1台、10人に1人ぐらいで、良く言えば冷静、悪く言えば冷淡な反応でした。民主党に入れるのは嫌だよね、という声がまだ多かったのと、みんなの党はなくなり、維新の党は次世代の党と分かれてしまい、野党で入れたい党がない。消極的選択として自民党・公明党に投票された方々がかなり多かったということを、我々はよく認識しないといけないと思っています。

     私は全国百数十カ所で応援演説を行いながら、「次の時代にツケを回さないためにも、年金、医療、介護、子育ての制度を安定させるためにも、消費税率の10%引き上げを決めていたのだが、日本全国の経済状況を見て、まだ10%にできる状況ではないと判断し、一年半先送りする」、「しかし、その間に、地方創生に取り組み、地方の経済を活性化させ、一年半後の平成29年4月に引き上げを実現できる環境を我々に作らせてください。そのための選挙なのです」と訴えましたが、何となく分かっていただけていないと感じるところがありました。

     つまり「選挙で勝ったからこれでいい」という話ではなく、実際にこれから何を実行するのかが重要なのです。選挙に勝って政権をお預かりするのはあくまで手段であって、目的はまさに国民から負託された地方創生、日本創生にしっかり取り組み、消費税率を10%に引き上げられる環境を整えるということだと思っています。

    400-2

    長野祐也(ながの・すけなり)昭和14年生まれ。中央大卒。昭和55年、衆議院議員初当選。3期連続当選し、厚生・自治政務次官などを歴任。平成8年政界を引退し、現在は、政治評論家として「ラジオ日本」パーソナリティー。「日本が動く時・政界キーパーソンに聞く」など著書多数。

     ――大臣は謙虚な捉え方をされていますけれども、長野先生はいかがですか。

     長野 大臣が高揚感のない選挙だったというのは投票率の低下に見事に表れているし、“逆桶狭間”のような奇襲作戦が成功して、野党が自滅しました。読売新聞の世論調査を見ても、「安倍政権に対抗できる野党がないから」というのが85%に上り、「安倍政権が評価されているから」は11%にとどまりました。消極的な支持なので、全幅の信任を得たというわけではない。大勝利の驕(おご)りが乱暴な国会運営に現れたりすれば、消極的な支持はすぐに剥げ落ちる危険性をはらんでいますね。

     やはり政策で、消費税率引き上げの問題にとどまらず、社会保障の将来構想とか財政再建に向けた取り組みを国民にしっかり見せる必要があるのかなという感じがしますね。

     木下 政権交代した12年暮れの衆院選と翌年の参院選は当時の石破幹事長の指揮の下、圧勝しました。今回は、突然の解散ということもあり「大義は何か」一部の国民は迷いましたが、野党の準備不足、力不足の故に結果として勝ちました。国政選挙3連勝しかもすべて圧勝したということは、すべての政策に国民が支持したわけではありませんが集団的自衛権の問題や原発再稼働など共通した公約についてはゴーサインが出たのだと思います。問題は、信任された経済政策アベノミクスを全面的に支える地方創生がしっかりと回答を出していけるのかということにもあるのではないでしょうか。

     ――今日のテーマは「地方と日本を元気にする国家戦略」です。地方活性化を重視した3・5兆円の経済対策、地方創生の総合戦略、その長期ビジョンが閣議決定されました。これが具体的に動いていけば国民も「今の与党に負託したことはよかったな」と思うのではないですか。

     石破 昨年末に、地方創生に関する長期ビジョンと総合戦略を閣議決定しました。長期ビジョンは2010年を始期として2060年には1億人の人口を維持するとの中長期展望を示したものです。総合戦略は来年度つまり2015年度から2019年度の5カ年の間の国としての政策目標、施策を策定したものです。

     総合戦略を一言で言えば、「しごと」と「ひと」の好循環を作るというのがその目標です。それによって地方において安定した雇用を作り、地方への新しい人の流れを作り、若い世代の結婚、出産、子育ての希望をかなえる、ということを目指すものです。

     しかし、目指すだけではなく、そこに具体的な業績評価指標を設定しました。KPI(キー・パフォーマンス・インディケーター)というあまり耳慣れない言葉ではありますが、何を達成するのかを明確にしたということです。例えば地方において2020年までの5年間で30万人の若者の雇用を作る、若い世代の正規雇用を増やす。また、東京圏から地方に転出する人を4万人増やし、地方から東京圏に転入する人を6万人減らす。そういう具体的な数値目標を設定し、そのためには何をするのか。それを実現するための施策を明示しました。

     今回の取り組みの最大の特徴は、国の総合戦略を受ける形で、全国すべての都道府県、市町村に、地方版の総合戦略を作ってくださいというものです。

     地方が総合戦略を策定するにあたって、一番やってはいけないのは、民間シンクタンクなどに策定を丸投げすることです。これは絶対だめ。次に悪いのは自治体の執行部のみで考えようとすることです。

     木下 全くその通りです。現場の声を聞かずに丸投げしてしまうと本当にその自治体に必要なアイデアが出てきません。

     石破 そうですよね。街はすべての住民のためのものですから、子供たち、女性、高齢者などの意見も、商工会あるいは農協の意見も反映して「皆で作った計画だよね」との納得感が得られるようにすべきだと思います。

     それから、「PDCAサイクル」というのは聞き慣れない言葉だと思いますが、何とか皆さんに理解していただき、実行していただきたいと思っています。Pはプラン、Dはドゥ、Cはチェック、Aはアクト。つまりプランを皆で作り、それを実行する。そして、そこに掲げた目標が達成できたかどうかのチェックもきちんとやる。さらに、チェックに基づいて新たなアクションを起こす、というのがPDCAサイクルの仕組みです。これをすべての自治体において機能させていただきたいということです。

     今までは、補助金の金額や補助率の高さ、交付税措置の厚さなどで首長が評価されてきた部分が多かったと思いますが、それによって行われた事業のほうの評価や検証は、誰も行わないままでした。その「宴(うたげ)のあと」というか「遺跡」は全国に山ほどあるでしょう。

     このようなことは今後はやらんということです。その代わりに地方が自ら考え、効果検証をして自ら行い、国はその取り組みを支援するというような、新しい国と地方との関係を築きたい。それが総合戦略の一番のポイントです。

    地方の活性化へ絶好の機会

    「発想の世代交代」がカギに 長野
    「出生率1.8」で希望の実現を 石破
    ローマ帝国滅亡の教訓学べ 木下

    地方の産業の生産性を向上 石破 
    政権の子育て支援策加速を 長野 
    「配偶者控除」正しい議論を 木下

    800-1

    新春座談会で論じ合う石破茂地方創生担当大臣(中央)、政治評論家の長野祐也氏(右)、世界日報の木下義昭主筆(左)

     長野 大臣の言われた「地方への新しいひとの流れをつくる」という点で、東京一極集中の流れを止めるという総論は誰も異議なしで評価できると思います。ただ、日本の近代化の中で当たり前とされてきた構造をここで大きく転換するという気概がまず重要でしょう。問題は経済効率性の壁を乗り越える知恵と工夫を全国の自治体が生み出すことができるのかどうか。

     そこにおいて、カギになるのが「発想の世代交代」ではないかと思います。30年先の地域像をイメージできるのは、30年後に意思決定の責任世代になる現在の20代の若者です。訳知り顔の大人だけで考えてもダメです。人口減少に向き合いながら自治体の生き残りを図るには、その地域の出身者だけでなく流入を期待する他の地域の若者も交え知恵と工夫をする取り組みが必要です。すなわち、それぞれの地域が持つ「世代間コミュニケーション能力」が問われてくると思いますけどね。

     木下 地方によく考えさせるというと、首長が簡単に手をつけるのがいわゆる賢人会のようなものを作って、60、70歳以上の有名な人ばかりを集めてきて、このふるさとをどうしようかとやる。そういうことよりも、大臣や長野先生が語られたように若い世代を入れて、ある意味ではすぐ成人することになる高校生や中学生を入れる。そういう人たちが日本を支えていくのですから、そういう若い人の意見を十分くみ取って進めていくことが重要ではないかと思います。

     ――人口減少問題の克服が大きな課題です。

     木下 私はいつも厚生白書を参考にしているのですが、平成10年度版の厚生白書「少子化社会を考える」というこの中に、合計特殊出生率1・43が続くと、日本の人口は2100年頃には約4900万人、2500年頃には約30万人、3000年頃には約500人、3500年頃には約1人という計算になるというデータを、この時点で推計して出しているんですね。これはよくまとまっていると評価しているんですよ。

     それから17年たちましたけれども、こういうデータがありながら、日本は与野党問わず、この問題を真剣に考えてこなかった結果が、今日の超少子化社会、超高齢化社会を迎えていると思うんですね。

     昨年5月に日本創成会議の予測で、40年までに全自治体の約半数の896の自治体が消滅するかもしれないという衝撃的なデータが出ています。今回の総合戦略等々を見てみますと、これをどこまで本当に復活できるのか。

     過去の例を見ましても、ローマ帝国は結局、外からの攻撃ではなく内のローマ人がおかしくなって人口も減って滅亡していきました。そういう点におきまして、大臣にはこの点は、相当力を入れていただきたいと思います。

    400-3

    世界日報主筆(社長)木下義昭

     石破 総合戦略では、若い世代の結婚、出産、子育ての希望を叶(かな)えることを基本目標に定め、その中に出生率1・8という数字も掲げています。ただしこれは、政策目標として掲げているのではありません。若い世代の方々は、結婚もしたいし子供も欲しいと思っている、しかし、それができるような状況にない、というデータがありますので、このような国民の方々の希望を実現する環境整備のための施策を行って、その希望が実現した場合の出生率として1・8を設定したものです。決して国からそれを押し付けるということではないので、これを「国民希望出生率」と呼びます。

     若い世代が、なぜ結婚しないかということを分析すると、「草食系男子」云々以前の問題として、まず300万円から400万円程度の収入がないと所帯を持つことに実現性がない。それも持続的に5年先10年先はどうか、といった見通しが立たなければ、安心して家庭が持てない、子供を育てられないということなのです。

     出生率は、地方の方が東京に比べて高いわけですよね。それは両親が近くにいる、あるいは一緒に住んでいるといった、近居同居の状況があるとか、家が広いとか、待機児童がいないとか、物価が安いとか、いろいろな理由があります。しかし一方で、地方には仕事がないし、あったとしても収入が低い、あるいは安定していない場合も多い。また、いま実は地方では、介護の人材が集まらない、建設業界に人が集まらないといった圧倒的な人手不足という状況が続いています。このような地方の産業の雇用を、より収入が高く安定したものにしていかねばならない。

     例えば、人手不足が地方に起こっている事実に着目し、いかにして地方の産業の生産性を上げていくか。日本全体で人が余っている状況でしたら、生産性を上げることは失業を増やすことにつながりかねませんが、今は日本全体で人が不足している。だからこそ生産性を上げて経営を安定化し、雇用を安定させ収入を上げる絶好の機会なのだということです。そういうことを実現することによって、地方での生活環境を確かなものにしていきたいと思っています。

     木下 それが大臣の言われるローカル・アベノミクスということになりますね。

     石破 ローカル・アベノミクスの一端はそういうことです。

     長野 仕事がまずあって人が来ると大臣の言われるその方向性は全く正しいと思うし、それについてのいくつかの細かい子育て支援を含めて雇用の問題についての提言があります。

     例えば、地域ごとにその特色・資源・歴史などをベースに育て創造していくべき産業を考え抜き戦略的に環境を整備していく必要があります。奄美大島では、物流のハンディを受けないIT産業やコールセンターを積極的に誘致していると聞きます。農林漁業でいえば「6次産業化」などが考えられるし、こうしたことの目利きのできる人材を育てていくことが大切だと思います。また、若者の就職から就職後のキャリア形成を支える仕組みも必要でしょう。さらに、子育て支援の面では、消費税再増税の延期にあたり、総理は「子ども・子育て支援新制度」は予定通り4月からスタートする、と明言しています。「待機児童解消加速化プラン」に代表されるように、安倍政権は子育て支援に積極的であり、この流れは加速していくべきです。

     それに加えて、妊婦期から出産、子育てに伴い、切れ目なくサポートする仕組みも必要でしょう。子育て世代は孤立化していると言われていますね。孤立化と言えば、お母さんに子育ての負担が偏っているようなので、2人目以降の出産にあたっては男性の育児・家事参加が鍵を握ります。育児休業制度は男性も取りやすくなってきましたが、そもそも、ワークライフバランスの改善も急務だと思います。雇用にも通じますが、1人当たりの生産性を高め、ワークシェアしていく方向にしていくべきです。

     いずれにしても、他の先進国を見ても、子育て支援に力を入れた国は、それなりに成果が出ていますので、働き方の見直しを含め、日本もやればできると信じています。それをやって、だいたい出生率は1・8ぐらいのところなんですね。

     木下 そうしますと、今のようなことを国と地方が連携してやっていくことで、ぎりぎり1億人という線で日本の人口を維持していくことは、なんとかなりそうな感じにしていただきたいと思います。今、政府・与党内で議論されている配偶者控除の縮小・廃止はあまりにも観念的で誤解の域を脱していない。子育ての主婦の役割は大きいので正しい方向に持っていくべきです。

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