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  • 青木 節子
    青木 節子
    内閣府 宇宙政策委員

    学校教育で冷遇される惑星科学

    廣井孝弘

     私は隕石と小惑星の分光学という、惑星科学という小さな分野でも、さらに特殊な専門を30年以上続けているせいで、学校教育や一般の人々とは関連は薄かった。しかし、はやぶさミッションが有名になったおかげで、近年では学校や一般の講演会で話す機会も増えた。

     ただ、学校教育では惑星科学はまだまだ冷遇されていると思わざるを得ない。アメリカに来て25年以上経つが、こちらで生まれた娘たちに日本領事館が支給する教科書を見て、改めてその感を深くする。

     手元にあるのは、「新しい科学第2分野上」および「下」(東京書籍、平成22年23年発行)と、「未来へひろがるサイエンス3」(啓林館、平成24年に発行)である。おそらくそれらは、中学1、2、3年用ということであろう。私自身が中学生であった40年ほど前にも思ったが、なぜ素直に教科書の名前を「理科」としないで、「科学」とか「サイエンス」とするのだろうか不思議だ。

    800

    今回取り上げた中学の理科の教科書

     さて、東京書籍の上巻を見ると、単元2に「大地の変化」がある。そこでは、火山・地震からプレートテクトニクス(※用語解説)の話になり、最後に地層の話で、化石の話題も含まれ、次の動物につながるような構成だ。基本的には、地球の話とは言え、惑星科学で出てくる、金星・火星といった大きな岩石型の惑星や、月や小惑星ベスタといった小さいが火成活動があった天体の表面の形や組成から起源を探るのに応用可能であろう。

     そして下巻では、単元4で「天気とその変化」があり、地球の大気の話であるが、地球という特別な惑星の大気の仕組みの導入となっている。1つ飛んで、単元6には「地球と宇宙」があり、おそらくこれが一番惑星科学に近い内容であろう。まずは天文学の基本ともいえる、夜空で星や星座がどう見えるかを解説し、そこで間接的に地球の地軸の向きや自転・公転の仕組みを理解しようとする。そして、恒星と惑星の違いの説明から、太陽系の内惑星と外惑星、そして月の見え方の説明が続く。そこから、望遠鏡で見た太陽の黒点やコロナの話から日食・太陽系の話に発展していき、第3章の「宇宙の広がり」に至り、惑星科学を最も思い起こさせる内容になる。

     そこでは、太陽系の惑星や衛星を比較惑星学的にさらっと3ページほどで解説し、太陽系の果てにあるオールトの雲に言及し、そしてその外の銀河系(天の川銀河)には何があるのかという話に続く。この単元の最後の方に「宇宙の歴史」という発展項目が見開き2ページにわたってあり、副題は「宇宙にわたしたちのなかまはいるのだろうか」となっている。内容を読んでみて、中立的な姿勢を取っているので安心したが、近ごろはマスメディアや科学者に至るまで、「地球外生命体」がいることが当然のような口ぶりをしているのが気になる。いずれ解説するつもりでいるが、惑星科学を研究すればするほど、地球という惑星ができる確率は限りなくゼロに近いことがだんだん分かってくる。

     では次に啓林館の「サイエンス3」を見てみよう。この3年生の教科書で惑星科学らしいのは「地球」という単元である。ここではまず第1章で、2年生までの内容と重なるが、天体の動きの観測から地球の動きを知るという話があり、第2章は「太陽系の天体」と題された内容がある。そこだけがおそらく惑星科学と直結する内容で、太陽系の惑星の運動・表面の様子・内部の推定、そして月の動きと日食の仕組みが詰め込まれている。この章はたった13ページで、よくもここまで濃縮したものだと思う。

     そこで注目したいのは、何とその中の1ページに、私も科学チーム員として貢献した「はやぶさ」による小惑星イトカワの映像と、「かぐや」による月表面からの地球の出の映像が紹介されていることだ。やはり他国のNASAとかのデータの借り物でなく、初めて得られた自国の自前のデータを紹介しない手はなく、それをやり遂げたことは絶賛したい快挙だ。

     残りの部分では、伝統的な物理・科学の後に、「環境編」があり、今の時世を反映していると感じるところだ。副題には「自然と人間」とあり、これが最終的な目的でもあると思わせられるつくりである。この内容は、地球環境が如何に維持されているかを教えてくれるもので、これも現代の地球という特別な惑星科学に属するものである。惑星科学で主たる対象になっている、地球のようになれなかった惑星を調べることで、地球が如何にして地球らしい環境を実現できたかを理解することもできる。それ故に、大学の学部学科は「地球惑星」と一緒にしているのだ。

     この教科書の巻末には「近代科学・技術の発展」という人物写真入りの年表があるが、中間子論を発表した湯川秀樹から始まるノーベル賞受賞者を含む日本の世界的科学技術者たちが列挙されている。私が学んでいたころは、確か4人しか日本人ではノーベル賞を取っていなかった時代で、今は20人以上受賞者がいて覚えきれないくらいである。このような教科書で学ぶ子供たちは自分の母国を大いに誇るべきだと思う。よい時代に生まれた子供たちだ。

     ただ、上でも簡単に言及したように、惑星科学は冷遇されており、中学でもそうだが、大学受験が迫る高校では地学はほぼ壊滅ではないだろうか。もちろん、惑星科学や地学は応用学問であって、物理・化学が最重要だと私は思うが、まっとうな惑星科学を知らないがゆえに、地球外知的生命体がいるに違いないと事実のように信じている子供たちが輩出されるのは良くない。

     地球温暖化が人為的なものであると証明されているかのような口調のマスコミと同様な弊害である。地球環境の仕組みは我々の誰もまだ解明し得ていない神秘に満ちたものと私は考える。浅知恵でどこにでも似た惑星があると楽観的になったり、逆に居住できない環境になっていっていると悲観的になったりすべきではない。

     私は帰国した際に、週末や平日に休日を取って学校などで講演や特別授業をすることがあるが、人気の「はやぶさ」などの話以外に、地球と太陽系ができた原因や過程が科学的に解明されればされるほど、その神秘性が増していくという話をする。いずれ紹介するつもりであるが、今回ヒントだけ言えば、アメリカで興隆してきたインテリジェント・デザイン(ID)理論の考え方で、私が特に注目するのは月と南極大陸に秘められた内容である。お楽しみに。

    (2016年2月7日記)

     プレートテクトニクス 地球表面の地殻には複数の岩盤(プレート)があり、その下のマントル対流に乗って互いに移動し続けているという理論であり、その結果、例えばプレートが沈み込むところに海溝ができている。

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