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  • 青木 節子
    青木 節子
    内閣府 宇宙政策委員

    予算最低レベルに停滞するNASAから学ぶこと

    廣井3

     先週も恒例の月惑星科学会議が1週間にわたってテキサス州ヒューストン地域で行われたが、月曜日の夜には通称NASA Nightと呼ばれるNASA HQの説明会があり、約500人の科学者たちが参加して、目を凝らし耳を澄ませて注目していた。今後の自分たち自身や技官や学生たちに払う給料や、その他の経費を取ってくるために必死だからだ。研究プログラムは数多くあるが、当選確率はもちろん全体としての予算と申請者の数に依存するから、NASA予算がどうなって、それがどのように分配されるのかは大きな関心事である。

     NASAの予算は、以下のサイトを見てもよくわかるが、1960年代後半にアポロ計画が全盛だったころは国家予算の4%を超える規模であったが、現在では0.5%を切るような小規模になって横ばい気味である。
    https://en.wikipedia.org/wiki/Budget_of_NASA

     幸い、トランプ大統領の2018年度予算の提案においては、軍事拡張に伴って科学技術方面を削るということだが、NASAは小さな減少にとどまっている。しかしながら、インフレを考えれば既に最底辺の予算が数%減少することになり、NASAにとっては深刻である。

     そのせいもあり、惑星科学部門の長であるJim Green氏は、最悪の事態は避けられたものの、これまでの大きな惑星探査ミッションによる“大きな科学”というモードから、一層、“低予算で効率の良い科学”を達成するべきだという語調を感じさせる話をしていた。最近台頭しつつある小型衛星を活用した特定科学ミッションや、以前から強調されてきた有人宇宙開発にのっかって、おまけとして科学をやるとか、ヨーロッパや日本といった他国の探査ミッションにゲスト機器を載せさせてもらうというものである。

     実際、今回初耳だったが、日本が2024年頃に打ち上げを予定している火星衛星試料回収ミッション(MMX)にNASAは2つの機器を載せるための提案を一般公募すると発表した。これはAnnouncement of Opportunity(AO)といって、科学者たちに創意工夫した機器と、そこから得られる新たな科学成果を提案してもらい、審査をして競争で決めていくものである。最近選定されたディスカバリーミッションのPsycheやLucyもそのように選ばれたのである。

     予算が厳しい状況が続いているので、NASAのそのようなコスト削減の努力は見習うべきところが多くある。私が一番感心するのは、長い歴史の中で数多くの探査ミッションから得られた観測データなどを、Planetary Data System(PDS)というシステムで保存して、後にデータの再解析によって新たな科学が生まれる可能性を残しておいていることだ。
    https://pds.nasa.gov/

    800

    NASA HQ説明会で語るJim Green氏。

     更に、観測や実験で得られたデータをPDSに登録するため掘り起こしたり変換するための科学研究費も申請して獲得することができ、実際、私が働く実験室(RELAB)の過去35年余りにわたるデータも、PDARTというNASA研究費を支給されて、現在PDSへの登録作業が進行している。新たに探査衛星を飛ばしたり、機械を構築してデータを獲得するよりも、既存のデータを有効活用し、現在および未来の幅広く優秀な科学者集団にそこからの科学的成果を託するのである。

     もっと身近なレベルの話をすれば、NASAのお金を使ったら、米国の航空会社しか使えないというような経費を度外視した決まりがある一方で、航空運賃も最低料金の便であり、かつエコノミーしか使えないというような、まるで日本のようなけち臭い方針もある。そして、海外出張をはじめとする予算申請を審査する眼も非常に厳しい。隕石試料さえも、NASAのお金では簡単には買えないといううわさもある。

     さて、このような状況でも依然として惑星科学の分野では世界一の実績を出しつつあるNASAから日本は何を学ぶべきか。MMXもトロヤ群小惑星探査もそれなりに素晴らしいし、フロンティアであるが、日本が低予算で確実に科学成果を出せる道は何かを考えると、それとはまったく違う方向性も考えられる。

     それは言うまでもなく、はやぶさシリーズによる近地球小惑星試料回収である。太陽光の反射スペクトルによって大きく分けて15種類ほどある小惑星のうちで試料回収がされているのはS型だけである。近地球軌道にあるすべての種類の小惑星から試料回収をして、反射スペクトルによる分類と実際の物質組成や宇宙風化度がどう対応するのかをしらみつぶしに確認していくのである。はやぶさ探査機の規模ならばH2ロケットで2つ同時に打ち上げられるので、あと7回打ち上げれば、残りのスペクトル型の小惑星の全てから試料回収ができるかもしれない。

     NASAのPsycheはM型小惑星に行き、LucyはD型のトロヤ群小惑星に行くが、どちらも試料回収はしない。だから、NASAがそれをする前に、近地球からでいいから、それらを含むすべての型の小惑星の試料を回収してくれば、近地球と主ベルト帯や木星軌道で温度や起源が違う故に解釈が分かれるかもしれないが、格段と大きな科学成果が得られると期待される。

     問題は、そのような発言を声を大にしていっている科学者たちがいないことである。小惑星が嫌いなのか、NASAと対抗して大きなミッションをしたいのか、小天体の重要性に無知なのか分からないが、基本的には大きなリスクを冒して大きなリターンを求めるか、小さいリスクで確実なリターンを求めるかの人生観の違いかもしれない。

    (2017年3月31日記)

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