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  • 青木 節子
    青木 節子
    内閣府 宇宙政策委員

    NASAディスカバリー計画と日本の将来戦略

    廣井3

     NASA(米航空宇宙局)は今回、その最も低予算の惑星探査枠であるディスカバリー計画に2つのミッションを採択した。低予算と言っても、予算の上限が4億5000万㌦だから約500億円以上でロケット代を含まずである。以下に説明があるが、LucyとPsycheの2つのミッションを新規採択し、既存のNEOCamを1年延長する予算を認可した。
    https://www.NASA.gov/press-release/NASA-selects-two-missions-to-explore-the-early-solar-system

     どれも小惑星ミッションとか観測という事で、NASAが小惑星を重視している傾向がみられるという論評も聞くが、私は単に、ディスカバリーの目的にそれらが合致しているからだと考える。どれも、まさにDiscovery(発見)の要素が大きい計画だからだ。

     Lucyは、太陽と木星のラングランジュ点、つまり木星軌道上で木星よりも60度だけ先と後に存在するトロヤ群小惑星にフライバイして形状や組成などを調べてくるミッションであり、それらに近づくミッションとしては史上初のものとなる。このトロヤ群の小惑星については、今までは、望遠鏡観測によって可視・近赤外反射スペクトル、熱輻射を測定することで大まかな組成と大きさの推定、そしていくつかの掩蔽観測ができた小惑星については正確な大きさや形が得られているだけであった。

     トロヤ群小惑星は、小惑星のスペクトル型から言えば、D型やP型が多い群れで、特にD型は隕石の中でもそれに相当する可能性のあるのはTagish Lake隕石1つしか得られておらず、小惑星軌道よりも遠くて木星軌道上に捕らわれたトロヤ群小惑星からは隕石が来ていない可能性も大きい。しかし、いずれにせよ太陽系の物質の中で最も始原的なものがある可能性があり、最近の太陽系形成論では木星が大きく太陽からの距離を変えた時があり、その際に冥王星領域に多い彗星のような物質が移動して、外部小惑星帯やトロヤ群に捕らえられたという説がある。

     はやぶさ3の候補としてトロヤ群小惑星からの試料回収も挙げられたが、その30年という長いミッション期間など幾つかの挑戦的要素のゆえに採択されていないという話を以前にした。NASAはこれまで通り、そのような新たな天体に行く際には、まずフライバイでサーベイをし、特定の対象を決めてからランデブーし、着陸機や走行機を下し、最後に試料回収となる。はやぶさはそれらを一挙になしたので世界一の場に躍り出たのであるが、NASAからすれば無謀なやり方であった。しかし、コロンブスの卵の如く、いったん出来ると分かった今は、OSIRIS-RExにみられるように、いきなり試料回収ミッションを立ち上げた。

     昔のVoyagerや最近のNew Horizonsに見られるように、太陽の重力と月や惑星によるスイングバイを利用して遠くの天体をフライバイするのはNASAのお家芸のように得意な業である。なので、Lucyも軌道的にはきっと成功するであろう。しかし、その上に積んだ観測機器が表面の組成や物理状態を正確に導き出せるかどうかは不明な点が多い。それは、機器に共通面が多いOSIRIS-RExが2018年の小惑星ベンヌとのランデブーの際のお手並みを拝見すればわかるであろう。それでもわからない部分は、やはり将来の試料回収に頼るという事になろう。

     では、もう1つの採択ミッションであるPsycheはどうであろうか。これはLucyと非常に対照的で、普通は岩石や氷を主としてできている小惑星の中で、ほぼ金属でできていると分かっている250km程度の大きさのM型小惑星16 Psycheに行くものであり、人類がまだ見たことのないような形状や重力分布を持つ天体である可能性が大きい。

    LucyとPsycheミッションの想像図(NASA)

    LucyとPsycheミッションの想像図(NASA)

     M型小惑星に対応する隕石としては鉄隕石であるが、一般には大きな小惑星が内部で溶けて分化して中心に金属のコアを作り、それが破片となって飛んできたのが鉄隕石であると考えられている。ただし、鉄隕石にはケイ酸塩鉱物の含有相があり、純粋に鉄や鉄とニッケルの合金であるというわけではない。更には、鉄隕石の冷却速度に従って、10数個の母天体があるとも考えられており、小惑星Psycheがどの鉄隕石の母天体なのかは知られていない。

     ただし、Psycheミッションは明らかに地球物理学的研究目的が主である。分化した小惑星の表面にあったはずの地殻やマントルはどのように飛ばされて、金属核はどのように冷えて行ったのか、金属でできたクレーターはどのような形状なのか、重力分布はどうなっているのかなどは地球物理学的な研究要素である。一方で、付随的なテーマであるものの、金属の宇宙風化はあるのか、共存する岩石の組成や宇宙風化はどうなっているのか、等々も興味深い物質科学的な要素である。いずれにせよ、ディスカバリー計画にふさわしく新規性の高い要素が多い。

     最後のNEOCamの1年延長は、明らかに地球に衝突してくる可能性のある近地球小惑星のサーベイだが、既にそういう危険な天体の軌道をずらすための研究も始まっているし、将来の試料回収ミッションにも役立つ活動であり、また将来的には地球軌道に捕獲することも期待できるという点で、大いに歓迎したい活動である。

     このような野心的かつスケールの大きいNASAのミッションに対して日本はどう競争していけるか。私は個人的には試料回収ミッションにこだわるべきだと考える。はやぶさ2の後には、MMXという火星衛星探査・試料回収ミッションを目指しているし、上述のようにトロヤ群小惑星探査・試料回収も考えているグループがある。また私は以前、ポストはやぶさミッションを皆で考えていた際にも、近地球の15個程度の全てのスペクトル型の小惑星からの試料回収を主張していた。そのような、格安かつ早く実現可能で精度の高い科学を可能にする試料回収ミッションを日本のお家芸として続けていくのは悪くない考えだと私は思う。そしてそれらをNASAのディスカバリー計画よりも安い値段でやってしまえるのが日本の力かもしれない。
    (2017年1月16日記)

     掩蔽観測 小惑星が遠くの恒星の光を隠すタイミング(始まりと終わりの時刻)を地球上の各地で正確に測定することによって、小惑星の軌道情報からその大きさや形を求める方法。

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