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  • 青木 節子
    青木 節子
    内閣府 宇宙政策委員

    はやぶさ2にかける世界の大きな期待

    廣井3

     今回、2週間の帰国をして、はやぶさ・はやぶさ2に関する学会・会議と、隕石試料の分光測定などの実験をしている。どれも、はやぶさ2が1年半後に小惑星リュウグウに到着するのが近づくにつれて、その危急さと熱気の向上を感じるものである。

     まず先週の火水曜日、11月29~30日に立川の国立極地研究所(極地研)において、極域シンポジウムの南極隕石部門と、JAXA宇宙科学研究所(宇宙研)の通称はやぶさ2016シンポジウムの合同セッションがあった。極地研はその越冬南極探検隊が1969年に南極における隕石の集積を発見した功績のある研究所であり、長年、南極からの隕石を分類・配分し、国内外の研究者にその分析・研究・発表を奨励してシンポジウムを開いてきた。

     それと同様に、宇宙研は、はやぶさ初号機が2010年6月13日に地球に送り届けたカプセルから見つかった小惑星イトカワの試料の回収・分析・分類をし、全世界の研究者たちに配分をしてきた。1970年代にNASAがアポロ11~17号(事故った13号を除く)によって回収された月試料を配分してLunar and Planetary Science Conference(LPSC、月惑星科学会議)の伝統を作ったと同じ活動である。この地球上で日本にしかない小惑星の純粋な試料を求めて世界中から科学者が集まるのである。これが世界一・世界唯一の実績を上げる醍醐味である。

     LPSCの場合は、最初は名称も内容もアポロ試料の学会ということだったが、それが月科学全般のものになり、その後、月と惑星などを広く扱う学会に拡大されて、惑星科学者の定番のような最高かつ最大の会合になった。そのような歴史から学んで、はやぶさシンポは最初から地球圏外試料分析と惑星科学一般に貢献する発表を募った学会となっている。しかし、もちろんイトカワ試料の分析結果が中心であることは間違いない。そして、2020年12月に無事はやぶさ2によってリュウグウの試料が帰還した後は、S型とC型という2つの対照的かつ最大の小惑星群の試料を日本が保有することになり、このシンポも拡大・発展するであろう。

     本当はこの極地研・宇宙研合同学会は金曜日まで4日間続いたのだが、はやぶさ2の合同科学チーム(Hayabusa2 Joint Science Team, HJST)会議が木金と宇宙研で開かれたので、私は後半は抜けねばならなかった。はやぶさ2の科学チームの中心は日本にいる日本人だが、私のように米国在住者もいる。そして、科学チームが招待して入った海外の研究者と、NASAが募集して資金援助もするHayabusa2 Participating Scientists(H2PS)がいて、彼らも含んだ合同科学チームをHJSTと呼んでいる。

    800

    はやぶさ2016シンポと、はやぶさ2合同科学チーム会議のプログラムの一部

     11年前、はやぶさがイトカワにランデブーした2005年にNASA側の科学者たちも参加していたが、重要な会議はすべて日本語で行われ、私は米国研究者たちに、会議で何が話されたのか根掘り葉掘り訊かれそうになった。しかし、何が伝えてもよい情報かが分からないことが多く、プロジェクトマネジャーの川口先生や科学マネジャーの藤原先生に任せるしかなかったことを記憶している。きっとアメリカ人たちは疎外感を感じたことであろうが、日本側の英語力不足と、皆にとって初めての経験で、情報の開示性や言語の壁に時間や神経を費やしている余裕はなかったとも考えられる。

     しかし、今回は違う。日本側の科学者たちの層は厚くレベルも高い、つまり、海外の学会で英語で発表や議論をしてきた科学者たちがチームにより多く入っているということだ。その中には、私も含む、はやぶさで大きく貢献してきた者たちや、それを通して学生やポスドクが大学の教官や研究者として昇進した者たちがいる。ミッションの成功が未来の人材を作ってくる1つの例である。

     今回のHJST会議で、欧米豪の研究者たちが何度も強調していたのは、はやぶさ・はやぶさ2にかける世界の期待である。日本は世界に先駆けて、はやぶさを成功させてその技術を立証し、現在はやぶさ2が向かっているリュウグウはC型小惑星という、最も始原的な隕石のグループである炭素質コンドライトと似ていると考えられている。NASAのOSIRIS-REx(O-REx)もそれに似たB型小惑星ベンヌに向かっているが、2つの小惑星とその試料採取方法には大きな違いがある。

     はやぶさ2が最大3カ所で試料を取り、3回目は小クレーターを形成して、宇宙風化していない新鮮な物質を取ることを試みるのに対し、O-Rexは基本的に1カ所だけでの採取で、上層の宇宙風化しているかもしれない微粒子を吸着した後に、窒素ガスの噴出と吸引で表面の粒子(レゴリス)を取ってくる。したがって、弾丸を当てて跳ね返ってくる粒子を取るはやぶさ2よりも大量の試料を回収できるかもしれないが、もし、試料の中に揮発性の物質があって気体が出た場合、その窒素と混ざってしまう。はやぶさ2のカプセルは真空でメタルシールによって密閉されているので、カプセルをクリーンルームに回収して最初に内部に気体があれば回収できる。

     また、その点を米国側の研究者が指摘したことも興味深い。科学者はどんなミッションでも科学成果を最大にする目的の機器仕様を望むが、技術者を含む全体の成功のために妥協せざるを得ないことが多い。特にNASAは歴史的にどんどん保守的になりすぎてしまった。だから、挑戦的すぎると言われて犠牲にしてしまった部分が他国のミッションで実現されれば、科学者たちとしてはその試料を分析して科学成果をあげたいのである。幸い、NASAはそのような他国のミッションに自国の科学者たちが参加することを支援している。日本とは大違いだ。

     私は普通は米国にいるので、HJST会議にはボストンの自宅からWebExというソフトを用いてネット参加することが多いが、今回は日本で実体として参加でき、また南極隕石シンポとの合同学会にも参加したが、やはり米国で培った私の技能と日本の研究者とのギャップを実感した。一方で、米国の科学者の質と私は競合していけると感じた。リュウグウも非常に面白い天体であって、先取した甲斐がある。残りの、一番心配な問題は、日本政府がはやぶさ2に予算を十分にくれなかったことと、私の分野での後継者の不足である。後者も私に大学での職をつけてくれればよいので、どちらも先立つものは金であるが、どうやら上の方の人たちには理解されていないようだ。

    (2016年12月5日記)

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