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  • 青木 節子
    青木 節子
    内閣府 宇宙政策委員

    火星の次は木星へ

    廣井孝弘

     一昨日まで、7月2~4日の3日間、相模原の宇宙科学研究所(宇宙研)で、Jupiter Trojan 2016という研究会があり、私もボストンからインターネットを通して参加・発表した。直前まで国際学会に出席していた外国人研究者の便宜を図って週末を含む異例な形で行われたと思われる。

     http://www.hayabusa.isas.jaxa.jp/kawalab/trojan2016/

     奇しくも昨日7月4日は米国の建国記念日であり、その日を狙って、NASAの木星探査機JUNOがランデブーに成功したところだ。2011年に打ち上げられて以来、5年かかりの航海だった。今回のJUNOミッションの目的である惑星大気や磁場は私の専門分野ではないが、木星の存在は、太陽系の地球型惑星の形成に対して大きな影響を与えた。その巨大さと地球型惑星に一番近いこと、そして最近注目されてきたGrand Tack仮説ゆえである。

     この仮説は、木星がその形成の過程で、内部に移動して小惑星帯をかき回し、その後また離れて行ってから現在の5.2AU(AUは天文単位と呼ばれ、1AUは太陽と地球との距離)に落ち着いたというものである。その仮説が正しいと、木星軌道にとらわれているトロヤ群小惑星には、遥かかなたの冥王星軌道で出来たような微惑星が含まれているらしい。それは彗星のようなものと考えられているが、その正体を見極めることは太陽系生成論において大きなカギとなる。

     今回の学会では、惑星探査、軌道計算、天文観測、実験室測定、隕石学などの分野から著名な外国人研究者が参加し、そのうち私も含めた6名はWebExを使ってインターネットで発表・参加するという形式だった。週末を押してもやるという、宇宙研のトロヤ群探査にかける情熱を感じさせるものであった。特に、はやぶさミッションでプロジェクトマネジャー(プロマネ)をされた川口淳一郎教授が、普段はなかなか見かけないのだが、この学会では頻繁に発言されていた。

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    最近行われた木星トロヤ群小惑星研究会の挿絵(JAXA)

     この状況を見るに、はやぶさ計画の発端となった1985年の小惑星サンプルリターン小研究会を思い出す。博士課程1年生だった私も先生に連れられて参加したが、まだイオンエンジンもM-Vロケットもなかった時代に、いつかそれらを開発して小惑星から試料を取ってくるという覚悟をもった人たちがいたに違いない。現在の日本の能力では、往復30年かかるミッションに耐える探査機ができるか不明であり、着陸機やそれに乗せるセンサーなども日本の技術ではまだ不十分である。しかし、やると決めればそれを可能とする技術を開発するしかない。

     この会合で私が特に注目したのは、コーネル大学のJim Bell(James Bell, IIIだが通称Jim Bell)の発言である。日本側の研究者たちが、トロヤ群試料回収には往復30年かかるので、試料回収は現在のところオプションとして考えており、片道と決めていけば、12年程度で行ける小惑星も見つかっていると発表したことへの反応と思われるが、JAXAはもっと野心的にやってほしいというものである。Jimの説明によると、NASAは過去には挑戦的なミッションをやって来たのに、どんどん保守的になり、現在では、可能であると確信の持てるものしか認可しなくなってしまったという。だから、トロヤ群小惑星試料回収ミッションなどは、JAXAやESA(欧州宇宙機関)のようにNASAほど保守的でない機関に挑戦してほしいということだ。

     わたしも、そのように各国がその特質を生かして補完的協力をすることに意義を感じる。同じ土俵で対等に競争するのもよいが、はやぶさが世界の意表をついたように、奇抜なアイディアで行くのがよいと思う。特に日本のように惑星探査において欧米に後れをとって来た国にとって、それが彼らと取引をする交換価値となる。探査衛星を追尾するためのアンテナでさえも、日本が探査機を向いていない時間はNASAのDSN(深宇宙ネットワーク)などを借りないといけないのだから。

     もちろん、純粋科学的に考えると、木星軌道のトロヤ群小惑星はD型小惑星が多いので、そんな遠くまで行かなくても、近地球軌道や主ベルト帯にあるD型小惑星から試料を取って来ればよいではないかという議論も成り立つ。しかし、それらD型小惑星が同じものであるという保証はなく、また、はやぶさ方式で取ってくるためには、対象天体がkm程度の小さいものであることが好都合である。主ベルト帯まで探して、そのような小さなD型小惑星で、軌道要素が往復飛行に適したものを見つけるのは難しい。一方で、トロヤ群であれば、そのサイズ分布をみると、kmサイズの小さいものも見つかる可能性が大きい。また、上述のように科学的価値はトロヤ群小惑星の方が大きいと思われる。

     そう考えると、ソーラーセイルを生かせるトロヤ群小惑星から試料を回収するミッションが、工学・科学の両面から大いに魅力的であると考えられる。はやぶさ2の次の試料回収ミッションが火星衛星になる可能性が高い現在、その次は木星を目指してトロヤ群小惑星試料回収をしようという機運になるやもしれぬ。

    (2016年7月6日記)

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