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  • 青木 節子
    青木 節子
    内閣府 宇宙政策委員

    地球と人類のためにある南極と月の不思議

    廣井孝弘

     前回は南極隕石と小惑星の研究で如何に日本が貢献してきたかを説明し、また少し前には、かぐや探査機が月の全球探査で世界を牽引してきたことを紹介した。南極と月は、場所は大きく異なるが、どちらも隕石と同様にタイムカプセル的な働きをしている、という話を紹介しよう。

     まず、南極大陸の表面は数万年程度の古さかもしれないが、地下を掘れば掘るほど古い氷が見つかり、70万年以上前までのものが採掘されているらしい。過去の氷には、過去の水だけでなく、空気や塵や微生物も含まれる。氷河期のサイクルが分かっているのも、氷の分子の同位体組成や氷の中に取り込まれた過去の空気中の二酸化炭素濃度を調べて気温を推定した結果だ。

     前回説明したように、この世界最大の氷床も、大陸移動によって南極に巨大な大陸が出来てからのことで、氷床の古さはせいぜい3000万年である。45億年以上の地球の歴史において、南極に過去の地球の環境の記録や隕石を蓄えた氷床ができた後に人類が出現し、南極を発見・探査したから、現在の我々の地球・惑星科学の知識が豊富になったのだ。

     南極は、それ以外にも地球の自転にあまり左右されない形で大気を観測できるし、オーロラ観測で太陽からの荷電粒子と地球磁場の相互作用を研究できる。氷の量や温度の変化を追っていけることも、当然ながら大きな意義がある。このような科学的に多くの恩恵をもたらす大陸が今ちょうど南極にあることと、それを生かせる科学ができる知的生命体である人類が同時に存在していることは偶然では片づけられない意義があると感じる。

     また、彗星や小惑星が地球に衝突して生命大量絶滅が起こったことは、例えば、有名な6550万年前のユカタン半島のK-T境界の地層調査によって分かる。氷河期ほど規則的ではないが、平均周期は3000万年くらいらしい。するとそろそろ危ないかもしれないが、人類が発生した環境を作るのに、その事件が大きく貢献していると考えることはごくごく自然である。月面のクレーターを見ても、地球や月に巨大な物体が衝突してきた歴史が分かる。特に月は衝突の歴史をよく保存しているので、隕石とともに、地球では分からない太陽系の初期の出来事を人類が調べる格好の材料である。

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    はやぶさ2が昨年12月に地球スイングバイをした際に多色カメラで撮像した地球の画像。南極大陸が大きく映っている。(JAXAウェブサイトより)

     そして、地球環境を維持するという点において、地球の周りを回っている月がとても重要なことは意外と知られていない。地球の自転軸は約23度の傾きを保っているが、他の固体惑星では自転軸の向きを長期にわたって安定的に維持するのは難しい。それは、コマが傾いていくように、回転角運動量を維持するのが難しいからだ。しかし、地球には他の惑星には見られないほど大きな月が1つだけ周りを回っている。地球・月系の回転角運動量のほとんどは月に帰属し、地球の自転軸の向きは歳差運動として変わっても、その公転面からの傾きは常に一定になるような作用をしている。もし地軸の傾きが過去に常に大きく変動していたり、特に90度傾いて水平になっていたりしたら大変なことになっていただろう。

     そして、何故現在の傾斜角になったのかは、おそらく月が形成されたときの地球への巨大衝突の際の、火星くらいの大きさの衝突天体の速度と角度によって決まったはずだ。月は当時、現在よりも15倍大きく見えるくらい近かったらしいが、地球の地軸の角度と、月の軌道によるその安定化と、地球の水の量の調節がすべてその巨大衝突の時にほぼ決まったと考えないといけないはずだ。そんなことが、これほど都合よく、偶然で起こりうるものであろうか?

     私が惑星科学をする大きな目的としては、隕石がどの小惑星から来たのかとか、地球に向かってくる小惑星をどうしたらよいかとか、またどこかの惑星に生命の起源や現在も生命がいるかなどではなく、地球ができたのは偶然か必然かというのが一番の興味である。この宇宙に何十兆の恒星と惑星系があったとしても、知的生命体が生まれるほど長く環境が良好に安定し、更に、彼らが科学をできるような環境が供えられるような惑星が生まれる確率が何千兆分の一とかそれ以下のほぼゼロに近い確率であるならば、おそらく宇宙で人類は我々だけであろう。そういう風に宇宙人の存在可能性を考えるのがまっとうなやり方と思う。SETI(地球外知的生命体探査)のような直接探査は無駄が多すぎる。

     そして、さらに言えば、そのような月形成の巨大衝突、K-T境界の巨大衝突、南極大陸の移動などによって、人類のような知的生命体を生むに十分な期間、安定した地球環境を維持し、既存生命の状態を制御し、更には人類が十分に発達した際に科学の対象として地球や太陽系の歴史を知ることができるような材料を残しておいてくれた、過去46億年の長きにわたる幸運ともいえる出来事の連続は、何者かの大きな力が太陽系の歴史を通して常に背後に働いていると考えるのも自然である。インテリジェントデザイン(ID理論)がそういう思想である。

    (2016年3月7日記)

     歳差運動 コマのように自転している物体に、回転軸をひねるような向きの力を与えると、自転軸が円を描くように振れること。地球の場合、太陽や月からの重力が地球の赤道面のふくらみに働く力が原因となって歳差運動を起こしている。

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