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  • 青木 節子
    青木 節子
    内閣府 宇宙政策委員

    はやぶさ前後の日本の固体惑星探査の成功と失敗

    廣井孝弘
     はやぶさ2の地球スイングバイの数日後、あかつき衛星の金星軌道投入が成功した。これは、5年前、はやぶさ初号機のカプセルが戻ってきて日本中が沸きに沸いた後、あかつきの主エンジンの故障により、最初の金星への軌道投入に失敗したことの再挑戦だった。当時は、全世界の脚光を浴びていたはやぶさの成功とは対照的に、日本の宇宙ミッションにおける惑星へのランデヴーというハードルの高さを思い知らされた時だった。

     思えば、はやぶさが打ち上げられた2003年は、火星へ向けて1998年に打ち上げられたPLANET-B(のぞみ)がトラブル続きだった時で、2003年12月に火星軌道への再投入を試みるが、米航空宇宙局(NASA)から強く要求された火星への衝突確率1%以下という精度を保証できず、挑戦もできないまま太陽を回る人工惑星となってしまった。映画では、川口先生がそれを非常に悔しがっているシーンが印象的だった。実際に、そのエンジントラブルや通信の途絶、そして米国からの圧力で諦めた経験が後にはやぶさでの頑張りにつながったのだろう。

     日本の固体惑星探査ミッションは、のぞみの失敗だけでなく、LUNAR-Aも打ち上げることもできずに終わっていた。これは月に「ペネトレーター」という地震計と熱流量計を積んだプローブを3個落とすことで、月内部の金属コアの大きさやエネルギー量を測ろうという試みだった。現在のようにH2Aという非常に安定したロケットがある時代とは違い、ロケットの失敗や、衛星に積む機器類の性能試験が通らなかったりと、いろんな問題が続いた時代だった。

     はやぶさの前に打ち上げられた衛星すざくも、はやぶさと同じリアクションホイールを用いていて、それらが故障をし始めたため、はやぶさ運用チーム員達もいずれはそれが自分たちに起こると覚悟していたらしい。案の定、2005年9月に小惑星イトカワに到着してタッチダウンする時までには、3つのうち2つまで故障してしまい、非常に不安定な中を世界初の小惑星への離着陸および試料採取を達成したものの、その直後に液体燃料漏れと通信途絶という、探査機にとっては致命的な事故が起こる。その結果、通信は回復したが、地球帰還は3年遅れの2010年とされた。

     この時点で、日本の惑星探査ミッションは、のぞみ、LUNAR-A、はやぶさという3つが様々なレベルで失敗を重ね、もし、はやぶさが帰還しなければ、将来がないのではないかとさえ危惧された。私はリモセン機器の科学チームとして2005年のランデヴーでの観測で一定の成果を出したが、やはり試料回収が誰の目にも明らかに分かる成果であり、特に小惑星での宇宙風化の存在を疑う輩には、それが決め手となる。私はカプセルに試料が少量でも入っていることを信じて疑わずに5年間待っていたが、自分が2006年に Nature に出した論文の結論が正しかったかどうか証明されることにもなるので、楽しみとともにハラハラする期間であった。

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    2011年のLPSCで開かれた、はやぶさ特別セッションでの発表者たちと聴衆

     一方で、アポロ計画以来の最大の月ミッションとして打ち出されて各国を牽引してきた日本のSELENE(かぐや)が2007年に打ち上げられた。かぐやは、月を上空から15個以上のセンサーで探査するミッションで、2個程度の機器の不調以外は大成功し、いまだにその成果が論文として出続けている。私が働くブラウン大学で長くお世話になった Carle Pieters 教授も、それに対抗するミッションである Moon Mineralogy Mapper(M3)センサーを2008年に打ち上げられたインドのチャンドラヤーン1号に乗せて2009年には成果を出し始めたが、かぐやが既に純粋な斜長岩や橄欖岩といった主要な発見をしていたので、水やスピネル岩石といったやや副次的な重要度の発見にとどまったという、ここでも、はやぶさと同様に世界初が如何に大切かを示す勝利の物語があった。

     そして、やっと2010年の6月、はやぶさのカプセルが帰還し、0.1ミリ程度という微小であったがイトカワの試料が多数発見され、日本と世界が注目する中で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)はその成果を発表していったが、極めつけは、2011年3月に米国ヒューストンで開かれた第42回の月惑星科学会議(Lunar and Planetary Science Conference)であった。これは通称LPSCと呼ばれ、アポロ11号が1969年に世界で初めて月の試料を持ち帰ってから世界の研究者に分配し、1970年に第1回の会合が持たれたのが始まりで、それ以降毎年続いているのだ。

     そのLPSCの2011年の第42回目には、とうとう日本が世界で初めて小惑星から持ち帰った試料を分析し、その成果を特別セッションとして、3月10日の午前中を使って発表したものだ。光栄なことに、そのセッションでは、私が初めて司会者を仰せつかり、東大の後輩である中村智樹君とともに日本のミッションの晴れ姿の会合を取り仕切った。日本から来ていたNHKはTV撮影禁止にがっかりし、新聞社なども私のことを知らず、他の売れっ子研究者にばかりインタビューしていたようだ。しかし、その会合の本当の意義を知り、それに最も感動していたのは、この専門分野を日本人で唯一30年間も続けてきた私自身であると確信する。その日は、迫害を受けてきた私のキャリアにおいて、やっと日の目を見ることができたと実感する時であった。

     ところが、米国時間でその日の深夜過ぎに、3.11東日本大震災が起こった。私は知らずに学会場へ行ったが、会場のすべてのテレビでCNNが津波の壮絶な映像を流しており、各国の参加者たちから、「日本からの皆さん、無事に帰れるのでしょうか?」と心配して声をかけられた。私は昨日の天国に上るような気持から一転して地獄に落とされたような気がした。それ故、はやぶさミッションの世界的な晴れ姿のニュースを知る人はほとんどいなかったと思う。

     さて、あかつきが逆行する金星を回る大きな楕円軌道に投入されたが、より太陽に近いことによる温度上昇や軌道への影響といった課題も残るはず。今後どうなるか注視すべきだろう。いずれにせよ、NASAは1990年にマゼラン探査機で金星のマップを作ったし、火星には数多くの探査機でランデヴーし、着陸機とローバーを送っている。日本が持っていないDeep Space Network(DSN、深宇宙アンテナ網)も持ち、はやぶさでは試料の1割を提供することと引き換えにそれを借用した。それくらい日米の宇宙開発の体力の差があるのだ。

    (2015年12月19日記)

     リアクションホイール 円盤が高速回転しているもので、その自転軸の向きを維持しようと知る力(角運動量保存則)を利用して衛星の姿勢を安定させたり、自転速度を変えて姿勢制御・変更に用いる。

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