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    元全国紙経済記者
    高橋 克明
    高橋 克明
    「ニューヨーク BIZ」CEO 兼 発行人

    AI棋士の「定石」と人の「ゴミデータ」

     米映画「イミテーション・ゲーム」(2014年公開)の主人公、英国の天才的数学者アラン・チューリングの夢だった“心を理解できる人工知能(AI)”はもはや夢物語ではなくなってきた。実際、ニューロ・コンピューター、ロボットの創造を目指して世界の科学者、技術者が昼夜なく取り組んでいる。

     ところで、ニューロ・コンピューターが登場したら、それは即、人間の心を理解できるAIの誕生を意味するのだろうか。当方は「『私』はどこにいるの?」(2015年5月24日参考)という題のコラムの中で独週刊誌シュピーゲル電子版(5月22日)の科学欄に掲載された衝撃的な記事を紹介した。イタリアの神経外科医 Sergio Canavero 氏が2017年に不治の病の体を持つ患者の頭部を脳死患者の体に移植する計画を進めているというのだ。トリノ出身の同外科医によると、患者(30歳のロシア人)は既に見つかっている。技術的には全てOKだという内容だ。

     今日の脳神経学者は、頭の中に精神的機能を司る神経網が張り巡らされていると主張している。他者を同情したり、怒ったりする心の働きが脳神経のどの部分によって生じるか、脳神経学者は掌握してきている。すなわち、脳神経学者は「愛」や「同情」という人間の感情、そして「私」も頭の中にあるとかなり確信している。

     チューリングは人間の心を理解できるAIを夢みていた。喜怒哀楽を司る人間の脳神経網のような機能を有するAIだ。頭内に張り巡らされた無数の脳神経網のデータをデジタル化し、それをAIに提供できれば、チューリングの夢はひょっとしたら実現できるかもしれない、と考える学者が出てきても不思議ではない。

     人間はある事、事項について決定する。決定した場合、「白」か「黒」が明確になる。「0」か「1」かはっきりする。しかし、人間は決定しない場合だってある。いつ決定するか本人は分からない状況も考えられる。だから、人間の心の動きを完全にはデジタル化しようとすれば、必ず誤差や誤謬が生じてくる。

     AIは学習能力で人間を凌いでいる。過去のビッグデータなどに基づき判断するその速度には人間はかなわない。ところで、研究中や睡眠中にインスピレーションを受けて科学史に残るような大発見をする科学者たちがいる。AI科学者が将来、インスピレーションを受けて新しい科学的発見をするとは考えられない。また、AIの「アルファ碁」と対戦した韓国棋士・李セドル氏は第4戦で初勝利をした時、「アルファ碁はこちらが予想外の手を打つと戸惑っていた」と証言している。AI棋士もビッグデータの処理、棋譜の徹底分析だけでは限界があることを示唆している。

     肉体は頭部を含め、電波を受信するラジオ(ハード)に過ぎず、電波(ソフト)そのものではない。だから、頭部を移植したとしても心まで移植できないのではないか。AIが人間の脳神経網を完全にコピーしたとしても人間の創造とはならないのではないか。

     (それでは、電波はどこからくるか、人間を形作っているソフト面はどのようになっているか、などの問題はテーマが大きいので別の機会にじっくりと考えてみたい)

     ビッグデータには多くのゴミデータが含まれている。人間を人間らしくしているものは、ひょっとしたらAIが消却するそのゴミデータ(デジタル化できない情報)の中に隠されているのではないだろうか。

    (ウィーン在住)

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