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    経済ジャーナリスト
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    中村 仁
    元全国紙経済記者
    高橋 克明
    高橋 克明
    「ニューヨーク BIZ」CEO 兼 発行人

    金星探査機「あかつき」は僕らの友達

     金星探査機「あかつき」が9日、逆噴射して5年ぶりに金星の軌道に入ったという。そのニュースを聞いた時、真っ先に考えたことはこの5年間、「あかつき」は何を考えてきたのだろうかということだった。打ち上げ日のような華やかさはもはやなく、2度と失敗できないといった切羽詰まった思いが強かったのではないか。期待が大きかっただけに、大変なストレスだったろう。太陽を周回する過去5年間の孤独な「あかつき」の飛行姿が脳裏に浮かんできた。

     読売新聞電子版によると、「あかつき」計画の責任者、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の中村正人教授は、「前回の失敗後、太陽の高熱に耐え、設計寿命を超えて航行してきた『あかつき』には、意外と頑丈だったねと声をかけたい」と述べたという。

     「あかつき」は太陽の高熱に耐え、金星の軌道に入った時、どんな思いだっただろうか。一度失敗した者でしか分からない複雑な思いがあっただろう。中村教授の「意外と頑丈だったね」という発言は、教授らJAXA関係者と「あかつき」との間でしか理解できない暖かいコミュニケーションだったはずだ。

     「あかつき」は2010年5月に種子島宇宙センターから打ち上げられ、同年12月に軌道投入に挑戦したが、主エンジンの故障で失敗した。5年ぶりに再挑戦して軌道投入に成功したわけだ。執念の成功ともいえる。「あかつき」の苦労と努力を先ずは称えたい。

     ここまで書いていくと、「当方氏はとうとう可笑しくなったのではないか」と心配して下さる読者が出てくるかもしれない。精密な設計と器材の合作とはいえ、「あかつき」は金星探査機だ。人間ではない。それは分かっているが、やはり「ご苦労さんだった」と慰労の声を掛けたくなるのだ。

     「意外と丈夫だったね」と述べた中村教授らにとって、「あかつき」は決して単なる機械の塊ではないはずだ。大げさな表現をすれば、自分の子供、ないしは弟子のように感じているのではないか。その感情は非常に現実的なものだろう。

     ひょっとしたら、日本人独特の感情移入かもしれない。米国人の理論物理学者(超弦理論)、ミチオ・カク教授はその著書「未来の物理学」の中でなぜ日本でロボット技術が発展するかについて2つの理由を挙げて説明している。一つは、少子化を迎え、労働力としてロボットが不可欠となってきたという事情がある。必要は発明の母だ。2番目の理由として、神道の影響があるという。人間だけではなく、森羅万象全てに心や魂のようなものが宿っていると考える神道の影響もあって、日本人はロボットを単に機械の集合体とは見なさず、自分の友、仲間のような思いでロボットに接する。まさに、自分の手足のように考え、ロボットと交流できるというのだ。

     カク教授によれば、米国ではロボットを恐ろしい異邦人、怪物のように受け取る子供たちが少なくない。日本人のようにロボットを友のように感じない。そこで日米間のロボット開発の差が出てくる。愛があれば、開発する努力とエネルギー投入で違いが出てくるわけだ。

     「あかつき」に対して自分の友のように感じる日本人も少なくないのではないか。中村教授の発言はそれを裏付けている。教授は過去5年間、長い距離を飛行してきた「あかつき」を慰労したかったはずだ。教授は「あかつき」計画に直接タッチしてきたから、その思いは当然、普通の日本人より深いだろう。

     人間は他の動物とコミュニケーションができるだけではなく、植物とも一定の意思疎通ができることは知られている。それを更に進め、人間は無機物とのコミュニケーションもできると信じる。犬や猫とのような高いレベルではないが、ある水準の交流ができると信じている。なぜならば、人間の肉体それ自体が宇宙の物質から成り立っているからだ。無機物を含む如何なる存在物も基本的には同じ要素から成り立っている仲間だからだ。「あかつき」は僕らの友達なのだ。

    (ウィーン在住)

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